血管内留置針の自己抜去をした患者の傾向と 看護師のアセスメントと比較して
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血管内留置針の自己抜去をした患者の傾向と 看護師のアセスメントと比較して
血管内留置針の自己抜去をした患者の傾向と 看護師のアセスメントと比較して 伊藤早百合,宮田佳奈恵,佐藤花菜子,形山優子,岡内淑 国立病院機構南岡山医療センター 3-3 病棟 【はじめに】 私たちの病棟は、急性期病棟であり点滴治療を必要としている患者が多く入院している。そのほとんどが 高齢者であり、認知症がある患者も多いため、治療への理解が得にくく、点滴自己抜去が多く発生している。 そこで今回、点滴自己抜去についてのインシデントレポートやカルテから、自己抜去に関する内容を分析し ていくことで、自己抜去した患者の傾向を明らかにしたいと考えた。また、自己抜去時の受け持ち看護師に アンケートを行い、その時のアセスメントを分析し、自己抜去した患者の傾向と照らし合わせることで、点 滴治療を行う際の今後の支援の在り方を検討していきたいと考えた。 【研究方法】 1. 研究対象は、自己抜去に関する 12 事例のインシデントレポートとカルテ、また自己抜去時に受け持ちを していた看護師 12 名を対象とした。 2. データの収集内容は、自己抜去のインシデントレポートに書かれてある全ての内容と、その患者のカル テから自己抜去に関する情報を収集し、受け持ち看護師にその時の状況について聞き取りを行った。ま た、受け持ち看護師に自己抜去に関するアセスメントについてアンケート調査を行った。 3. データの分析方法としては、収集したデータを、KJ 法を参考にカテゴリー別に共同研究者と内容を分類 し、自己抜去した患者の傾向と看護師のアセスメントを分析していった。 【結果】 患者の傾向としては、平均年齢が 85.25 歳、標準偏差は±5.77 という結果が出た。自己抜去した全ての患 者が高齢者であり、点滴自己抜去した時期に関しては、入院より 1 週間以内が 12 事例中 8 事例だった。 発 見時刻に関しては、実際に自己抜去した時刻については不明だが、時間帯に共通点はなかった。入院時に認 知症や精神障害があった事例は、12 事例中 8 事例だったが、自己抜去時には全員に認知症や精神障害が出現 していた。 点滴拘束時間に関しては、1 時間から 24 時間まで様々であり、点滴施行中に自己抜去した事例 は、12 事例中 9 事例だった。 点滴の管理をする上での看護師のアセスメントに関しては、自己抜去の危険 性が高いと判断した理由は、「点滴・病院であることを理解していなかったから」「高齢であったから」など があり、対策としては、包帯保護や頻回な訪室、家人への付き添いの依頼や離床センサーの使用などが行な われていた。また、低いと判断した理由は、「認知症があったが、その日は不穏がなかったから」「入院した ばかりで予測不能だったから」 「現時点での対策で抜去は可能性が低いと思っていたから」などがあり、対策 としては包帯保護や離床センサーの使用があり、対策がされていない事例もあった。また、カルテからの情 報より、「離床センサーの使用」 「家人の付き添い」という対策は、自己抜去に関する対策ではなく、転倒・ 転落の防止対策を考えて行われていた。 【考察】 自己抜去をした患者は、全て高齢者であり、自己抜去時には、全ての患者にせん妄を含め認知症や精神障 害が出現していた。このことから、高齢者の脳は、脳の機能低下により高齢であるというだけで、入院中に 認知症や精神障害が出現する可能性があり、自己抜去の危険性があると考え、点滴治療を行っていく必要が あると考えられる。 また、 「自己抜去時期が入院から 1 週間以内に多い」という結果が得られた。「自己抜去時期が入院 1 週間 以内」というのは、点滴治療や侵襲的な検査・治療が集中して行われている時期でもある。点滴を行うため の留置針の挿入も、侵襲的な検査や治療と同様に、患者のストレスとなっていることが考えられ、認知症や 精神障害の出現の引き金になると考える事ができる。自己抜去を防止していくためにも、入院によるストレ スを軽減できるよう援助していく必要があると考えられる。例えば、入院生活に対して患者が不安を感じな いように説明を行ったり、身体的苦痛に対して傾聴し緩和できるように関わっていく必要がある。 自己抜去の危険度が 高 入院1週間 以内 (①②③④⑤) い 侵襲的な 治療 看護師の アセスメント ・胃カメラ(③) ・EMR(②) ・術後2日目(①) 環境の変化 認知症・精神障 害があったから (①②③④⑤) 対策 点滴時の状況 と拘束時間 高齢だから (⑤) 点滴中の自己抜去 包帯保護 (①④⑤) 頻回な訪室 (②④) 1時間 (①) ・6時間(③) ・12時間(②) ・24時間(④⑤) 転倒・ 転落対策 ・家人に付き添い 依頼(③) ・離床センサー(③) 点滴中以外の自己抜去 自己抜去の危険度が 低 い 入院1週間 以内 (⑥⑦⑧) 入院0.5~1カ月 程度 (⑨⑩⑪⑫) その時の対策 で十分だと 思ったから (⑫) ・3時間(⑪) ・4時間(⑨) ・5時間(⑩) ・6時間(⑦) ・10時間(⑧) 点滴中以外の自己抜去 ・1時間(⑥) ・2時間(⑫) 転倒・ 転落対策 点滴中の自己抜去 今まで自己抜去の 兆候がなかったか ら(⑥⑦⑧⑨) その日は認知 症・精神障害が なかったから (⑧⑩⑪) 頻回な 訪室(⑥) 離床センサー (⑫⑥) 図1 自己抜去の看護師アセスメント別のKJ図 包帯保護 (⑨⑩⑪⑫) 看護師の自己抜去の危険性が高いとアセスメントしていた 5 事例では、内容として①認知症・精神障害が あったから、 ②高齢であったからという 2 点があった。自己抜去の危険性が高いとアセスメントしていたが、 対策として包帯保護や頻回な訪室のみであり、対策が十分できていない。このことから、患者に合った自己 抜去防止対策を考える必要があり、点滴の実施方法などを医師と共に自己抜去の対策を考えていく必要があ ると考えられる。 自己抜去の危険性が低いとアセスメントしていた事例の中に、 「今まで自己抜去の兆候がなかったから」と いうアセスメントをしていた事例が 4 事例ある。その 4 事例中 3 事例が、自己抜去時期が入院 1 週間以内で あり、自己抜去に対する対策が行なわれていなかった。入院時より自己抜去につながる情報を収集し、看護 師間で共有していき、またせん妄スケールなどを使用し、看護師同士が同じ視点で患者を捉え、自己抜去の 危険度を考えていく必要があると考えられる。 当病棟では、徘徊や点滴自己抜去など患者の行動を「問題行動」と考え、それに対する対策を考えてはい ても、その行動に対する意味の内容分析を行っていない。田中ら 5)は、「一般にいわれている“問題”とさ れる行動には、必ず、その人なりの意味や理由がある」と述べており、私たちは日常のなかでの患者の訴え や行動にも注意しながら、認知症や精神障害の程度を考えて、患者理解について深めていく必要があると考 えられる。 【おわりに】 本研究では、過去のデータを使用しており、患者の認知症の程度や危険行動の内容、日々の患者の訴えな どをタイムリーな情報を得ることができなかった。そのため、点滴自己抜去しやすい患者の傾向の内容が詳 しく分析できなかった。一症例ずつを細かく分析し、患者の言動の意味を考え、個々の患者にあった対策を 考えていく必要があったといえる。 【文献】 1) 大平政子:実践的看護のための病棟・外来マニュアル エクセルナース[老年編],メディカルレビュー社, 2004 2) 一瀬邦弘・大田喜久子・堀川直史:せん妄すぐに見つけて!すぐに対応!,照林社,2002 3) 永井秀雄:見てわかるドレーン&チューブ管理,Gakken,2006 4) 卯野木健:Expert Nurse チューブ・ライン自己抜去を防ぐコツ せん妄/抑制/鎮痛・鎮静,照林社, 2009 5) 田中とも江・吉岡充:縛らない看護,医学書院,1999 6) 堀内園子:認知症看護入門,ライフサポート社,2008 7) 青木照明 他:系統看護学講座別館 1 臨床外科看護総論,医学書院,2002 8) http//www.crew.sfc.keio.ac.jp/lecture/kj/kj.html