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新規抗凝固薬も相互作用を熟知して使うべき 【抗血栓薬】P 糖蛋白質、アルブミン結合が関与する相互作用も 土橋内科医院の小田倉弘典氏は、「代謝や排泄などを熟知した上で抗凝固薬を使わなくてはならない」と話す。 作用が増強すれば大出血、減弱すれば塞栓症─。抗血栓薬は相互作用によるインパクトが非常に大きい。抗トロンビ ン薬のダビガトラン(プラザキ サ)や抗Xa 薬のリバーロキ サバン(イグザレルト)、アピ キサバン(エリキュース)とい った新規抗凝固薬は、使い やすさで臨床使用が広がっ ている。だが、「相互作用は ワルファリンに比べれば少な いだけ。相互作用を熟知した 上で使うべきなのは同様だ」。 循環器内科医で、土橋内科 医院(仙台市青葉区)院長の 小田倉弘典氏は、こう強調す る。 ダビガトランでは、P 糖蛋白 表 4 新規抗凝固薬の主な相互作用(添付文書を基に作成) 質に起因する相互作用が特 に大きな問題となる(表 4)。 P 糖蛋白質は、薬物などの異物を排泄する方向に働く膜蛋白質だ。小腸上皮細胞に発現した P 糖蛋白質は、細胞内に 入り込もうとする薬剤を腸管内腔へはじき出していることが最近の研究で分かってきている。 ダビガトランは P 糖蛋白質の基質となるため、通常は P 糖蛋白質により腸管内腔へ排泄される。しかし P 糖蛋白質の 阻害薬を併用すると、ダビガトランの吸収が促進されて血中濃度が上昇してしまう(図 3)。添付文書には併用注意の欄 に「P 糖蛋白質阻害薬」とあり、P 糖蛋白質を阻害する薬 全てに注意が必要だ。小田倉氏は、「禁忌の抗真菌薬だ けでなく、心房細動によく使うベラパミル(ワソラン他)も阻 害薬。併用時はダビガトラン 1 回 110mg への減量を考慮 しなくてはならない」と話す。抗不整脈薬のアミオダロン(ア ンカロン他)や、臨床使用が多いクラリスロマイシン(クラリ ス他)も P 糖蛋白質阻害薬だ。一方、P 糖蛋白質の誘導薬 にはカルバマゼピン(テグレトール他)などがあり、併用で ダビガトランの作用が減弱する恐れがある。 小腸上皮細胞に発現する P 糖蛋白質は、ダビガトランを管 腔側に排出する働きを持つ。この P 糖蛋白質が薬剤によ って阻害されると、ダビガトランの吸収が増えて血中濃度 が上昇する。 リバーロキサバンやアピキサバンは、ダビガトランにはな い CYP に絡んだ相互作用がある。添付文書には、CYP に 図 3 P 糖蛋白質の阻害によるダビガトラン血中濃度上昇 の概念図 起因する相互作用として HIV プロテアーゼ阻害薬、抗真菌薬、クラリスロマイシン、リファンピシンなどが記載されている。 なお、リバーロキサバンとアピキサバンは P 糖蛋白質の基質でもある。 ワルファリンにも様々な盲点 相互作用の代名詞ともいわれるワルファリン。その機序には、(1)ビタミン K(2)CYP2C9(3)アルブミン結合─の 3 要 因が関わる(表 5)。 表 5 ワルファリンの主な相互作用の機序 天理よろづ相談所病院の中川義久氏は、「抗血栓薬は薬のラインナップが増え、使い方が複雑化する」と話す。 まず、ビタミン K は言うまでもないが、抗菌薬の長期使用による影響はあまり知られていない。抗菌薬がビタミン K を産 生する腸内細菌を抑制してワルファリンの作用が増強する。「抗菌薬を 1 週間も使用すると PTINR が延び、大出血を起 こす患者がいる」と天理よろづ相談所病院(奈良県天理市)循環器内科部長の中川義久氏は注意を促す。 CYP2C9 に関しては、阻害薬であるベンズブロマロン(ユリノーム他)やブコローム(パラミヂン)が他科から処方される ことがあり、注意したい。小田倉氏は、「10 年ほど前、知らないうちに整形外科から痛風治療にベンズブロマロンを投与 され、ワルファリンの作用が増強して患者が腎出血を起こしたことがある」と話す。 アルブミン結合に起因する相互作用で問題になりやすいのは、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)だ。NSAIDs はア ルブミンとの結合力が強く、遊離ワルファリンが増えてワルファリンの作用が増強してしまう。また、NSAIDs には血小板 凝集抑制作用もある。「腰痛や関節リウマチなどで長く NSAIDs を併用すると、ワルファリンの作用が強まる。消化管出 血が増強する恐れもあり、二重の意味で怖い」と小田倉氏は話す。 抗凝固薬+抗血小板薬は? 出血リスクの面では何より、抗凝固薬と抗血小板薬の組み合わせも問題になる。抗血栓薬を使う日本人 4009 人を対 象にした大規模前向き観察研究(BATstudy)は、生命に危険を及ぼす出血と大出血の年間発生率を調べたところ、(1) 抗血小板薬単剤群で 1.21%、(2)抗血小板薬 2 剤群で 2.00%、(3)ワルファリン群で 2.06%、(4)ワルファリン+抗血 小板薬群で 3.56%─と明らかに増えた(Stroke2008;39:1740-5.)。 抗凝固薬と抗血小板薬の併用は、明確な根拠がなければ避けるべき。中川氏は、「とりあえず出しておこうとアスピリ ンを安易に処方しておいて、さらに心房細動などの理由で抗凝固薬も重ねるのは問題だ」と話す。 一方で、やむを得ない併用もある。例えば、心房細動患者が冠動脈に薬剤溶出性ステント(DES)を留置したケース。 抗凝固薬に抗血小板薬 2 剤を併用する期間が生じる。 こうした症例に、日本では DES 留置後にアスピリンとチエノピリジン系薬の併用(dual antiplatelet:DAPT)を 1 年間 続けるよう推奨されているが、欧州では DAPT の期間が 3 カ月でよいとする場合も認められた。今後、抗凝固薬と DAPT の併用期間は短くなりそう 現在、抗血小板薬でもプラスグレルやチカグレロルといった新薬が開発されている。中川氏は、「抗血栓薬の種類がま すます増え、併用のパターンも増える。しかし、どう組み合わせればよいかという知見が少なく、抗血栓薬の使い方に習 熟するにはデータや経験の蓄積が必要だろう」と話している。