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極限
alg-d
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2015 年 4 月 26 日
定義. C, D を圏,c ∈ C ,G : D −→ C を関手とする.コンマ圏 c ↓ G の始対象を c から
G への普遍射 (universal arrow) という.即ち,以下を満たす組 ⟨d, f ⟩ のことである.
1. d は D の対象である.
2. f は C の射 c −→ Gd である.
3. 別の組 ⟨d′ , f ′ ⟩ で上の条件を満たすものがあったとき,D の射 g : d −→ d′ が一意
に存在して Gg ◦ f = f ′ となる.
f
c
Gd
d
g
Gg
f′
Gd′
d′
双対的に,コンマ圏 G ↓ c の終対象 ⟨d, f ⟩ を G から c への普遍射という.
f
d
g
d′
c
Gd
Gg
f′
Gd′
例. C を圏,∆ : C −→ C × C を対角関手とする.⟨a, b⟩ ∈ C × C から ∆ への普遍射
⟨f, g⟩ : ⟨a, b⟩ −→ ∆c が存在したとする.このとき,別の射 ⟨f ′ , g ′ ⟩ : ⟨a, b⟩ −→ ∆c′ に対
1
して射 h : c −→ c′ が一意に存在して次が可換となる.
⟨f,g⟩
⟨a, b⟩
c
∆c
h
∆h
⟨f ′ ,g ′ ⟩
∆c′
c′
これを圏の直積の定義を思い出して書き直すと,次の可換図式になる.
f
a
g
c
b
h
f′
g′
c′
即ち,⟨a, b⟩ から ∆ への普遍射とは coproduct a ⨿ b のことである.
同様にして以下の事が分かる.
• ∆ : C −→ C × C から ⟨a, b⟩ への普遍射が直積 a × b である.
• ! : C −→ 1 = {0} を一意に定まる関手として,0 から ! への普遍射 ⟨c, f ⟩ が存在と
する.このとき c が始対象である.同様にして ! から 0 への普遍射を ⟨c, f ⟩ とすれ
ば c が終対象である.
• J := {∗ ← ∗ → ∗} として ∆ : C −→ C J を対角関手とすれば,(x ← z → y) ∈ C J
から ∆ への普遍射が pushout である.pullback も同様.
• 同様に,J = {∗ ⇒ ∗} の場合が equalizer, coequalizer である.
例. U : Ab −→ Set を忘却関手とする.集合 X で生成される自由アーベル群を F X と
して自然な包含写像を i : X −→ F X とする.このとき F X は以下の性質を満たす: 任意
のアーベル群 A と写像 f : X −→ A に対して,準同型写像 g : F X −→ A が一意に存在
して g ◦ i = f を満たす.
X
i
UFX
FX
Ug
g
f
UA
A
即ち,⟨F X, i⟩ は X ∈ Set から U への普遍射である.
この意味で「自由アーベル群」は集合からアーベル群を構成する方法としては一番《自
然》と言える.
2
定義. C を圏とする.圏 J と対角関手 ∆ : C −→ C J を取る.∆ から T ∈ C J への普遍
射 ⟨lim T, π⟩ を極限 (limit),T ∈ C J から ∆ への普遍射 ⟨colim T, µ⟩ を余極限 (colimit)
という.
※ 数学でよく出てくる射影極限 (projective limit)・逆極限 (inverse limit) が極限で,
帰納極限 (inductive limit)・順極限 (direct limit) が余極限である.
定義.
1. J が有限 (即ち,射が有限個) の場合の極限を有限極限,余極限を有限余極限
という.
2. J が小圏の場合の極限を small limit,余極限を small colimit という.
3. C が完備 (complete)
⇐⇒ 任意の小圏 J と T ∈ C J に対して lim T ∈ C が存在する.
4. C が余完備 (cocomplete)
⇐⇒ 任意の小圏 J と T ∈ C J に対して colim T ∈ C が存在する.
5. C が有限完備
⇐⇒ 任意の有限な圏 J と T ∈ C J に対して lim T ∈ C が存在する.
6. C が有限余完備
⇐⇒ 任意の有限な圏 J と T ∈ C J に対して colim T ∈ C が存在する.
定理 1. 集合の圏 Set は完備である.実際,小圏 J と関手 T ∈ SetJ に対して lim T ∼
=
HomSetJ (∆1, T ) となる.
証明. j ∈ J とする.α ∈ HomSetJ (∆1, T ) を取る.αj : 1 = {0} −→ T j が定まる.そこ
で πj (α) := αj (0) ∈ T j と置く.これにより自然変換 π : ∆(HomSetJ (∆1, T )) =⇒ T が
定まる.これが普遍射であることを示せばよい.その為に集合 x と自然変換 σ : ∆x =⇒
T を取る.
Hom(∆1, T )
π
∆(Hom(∆1, T ))
∆f
f
x
T
σ
∆x
このとき写像 f : x −→ Hom(∆1, T ) を次のように定める.a ∈ x に対して f (a) : ∆1 =⇒
T を f (a)j : 1 ∋ 0 7−→ σj (a) ∈ T j で定める.このとき π ◦ ∆f = σ である.
3
. .
. ) j ∈ J ,a ∈ x に対して
(π ◦ ∆f )j (a) = πj ◦ f (a) = πj (f (a)) = f (a)j (0) = σj (a).
逆に ∆f ◦ π = σ となるような f が一意であることもわかる.故に π が普遍射であり,
lim T ∼
= HomSetJ (∆1, T ) となる.
定理 2. Set は余完備である.
証明. J を小さい圏,T : J −→ Set を関手とする.x :=
⨿
T j とする.a ∈ T j ,b ∈ T k
j∈J
に対して
aRb ⇐⇒ ある f ∈ HomJ (j, k) が存在して (T f )(a) = b となる
と定めれば,この R は x 上の二項関係を定める.R を含む最小の同値関係を ∼ として
y := x/∼ とおく.y = colim T であることを示す.
その為に任意の集合 z と自然変換 θ : T =⇒ ∆z を取る.x =
⨿
T j の普遍性により射
h : x −→ z が一意に延びる.
Tj
Tf
θj
x
h
z
θk
Tk
このとき定義から明らかに,a, b ∈ x に対して「a ∼ b ならば h(a) = h(b)」である.故に
射 y −→ z が自然に定まる.
この証明は次のように一般化される.
定理 3. small coproduct と coequalizer を持つ圏 C は余完備である.
証明. J を 小 圏 ,T : J −→ C を 関 手 と す る .仮 定 に よ り coproduct
⨿
⨿
Tj と
j∈Ob(J)
T (dom f ) が存在する.各 f ∈ Mor(J) に対して dom f = j となる j ∈ Ob(J) が
f ∈Mor(J)
一意に定まるから,id : T (dom f ) −→ T j により射 p :
⨿
f ∈Mor(J)
4
T (cod f ) −→
⨿
j∈Ob(J)
Tj
が自然に定まる.
⨿
⨿
T (dom f )
Tj
p
f ∈Mor(J)
j∈Ob(J)
if
ij
T (dom f )
Tj
id
一方,各 f ∈ Mor(J) に対して cod f = k となる k ∈ Ob(J) が一意に定まるから,
⨿
T f : T (dom f ) −→ T k により射 q :
⨿
T (dom f ) −→
f ∈Mor(J)
j∈Ob(J)
Tf
T (dom f )
Tk
ik
if
⨿
⨿
q
T (dom f )
f ∈Mor(J)
Tj
j∈Ob(J)
⨿
仮定により p, q の coequalizer e :
⨿
T j が定まる.
T j −→ x が存在する.また ηj := (T j →
j∈Ob(J)
e
Tj −
→ x) と定める.
T (dom f )
Tf
Tk
⨿
ηk
ik
if
q
T (dom f )
f ∈Mor(J)
p
Tj
e
x
j∈Ob(J)
if
T (dom f )
⨿
ij
id
ηj
Tj
このとき η は自然変換 η : T =⇒ ∆x である.
. .
. ) f : j −→ k を T の射とする.ηk ◦ T f = ηj を示せばよい.まず上の図式の上半
分,下半分の可換性から ηk ◦ T f = e ◦ q ◦ if ,ηj = ηj ◦ idT j = e ◦ p ◦ if が分かる.
e が p, q の equalizer だったから e ◦ p = e ◦ q である.従って ηj = ηk ◦ T f となる.
η が T から ∆ への普遍射であることを示せばよい.その為に σ : T =⇒ ∆c を取る.こ
5
のとき σj : T j −→ c と coproduct の普遍性から g :
T (dom f )
⨿
T j −→ c が得られる.
Tf
Tk
σk
ηk
⨿
⨿
q
T (dom f )
f ∈Mor(J)
p
Tj
e
j∈Ob(J)
x
c
g
ηj
σj
T (dom f )
Tj
id
g ◦ p = g ◦ q である.
⨿
. .
. ) f : j −→ k を取る.if : T (dom f ) −→ T (dom f ) を標準的な射とする.g の
取り方から σj = g ◦ p ◦ if ,σk ◦ T f = g ◦ q ◦ if となる.今 σ が自然変換だから
σj = σk ◦ T f である。故に g ◦ p ◦ if = g ◦ q ◦ if が成り立つ.よって
⨿
T (dom f ) の
普遍性から g ◦ p = g ◦ q である.
よって coequalizer の普遍性から h : x −→ c が一意に存在して h ◦ e = g となる.この
とき
(∆h ◦ η)j = h ◦ ηj = h ◦ e ◦ ij = g ◦ ij = σj
である.よって ∆h ◦ η = σ である.
双対を考えれば次も分かる.
定理 4. 直積と equalizer を持つ圏は完備である.
同様にして
定理 5. 有限直積と equalizer を持つ圏は有限完備であり,有限余直積と coequalizer を
持つ圏は有限余完備である.
定義. C を有限直積を持つ圏とする.すると対象 c ∈ C に対して − × c : C −→ C は関手
となる.このとき − × c から d ∈ C への普遍射 ⟨dc , ev⟩ を exponential object という.
(ev : dc × c −→ d を evaluation map という.)
例. C = Set の場合,dc は集合としての冪 dc = HomSet (c, d) であり,ev : dc × c −→ d
は ev(f, x) = f (x) で与えられる.
6
例. C = Cat の場合,dc は関手圏である.
T : I × J −→ C を 関 手 と す る .i ∈ I と す れ ば T (i, −) : J −→ C は 関 手 で あ
る .よ っ て こ の 余 極 限 ⟨colimj T (i, j), µi ⟩ を 考 え る こ と が で き る .(こ こ で µi は 自
然変換 T (i, −) =⇒ ∆(colimj T (i, j)) であり,各 k ∈ I に対して (µi )k : T (i, k) −→
colimj T (i, j) は C の射である.)
命題 6. 各 i ∈ I に対して余極限 ⟨colimj T (i, j), µi ⟩ が存在するとする.このとき関手
F : I −→ C が一意に存在して,以下の条件を満たす.
1. i ∈ I に対して F (i) = colimj T (i, j)
2. (µi )k : T (i, k) −→ F (i) が自然変換 (µ− )k : T (−, k) =⇒ F を定める
証明. i0 , i1 ∈ I ,j0 , j1 ∈ J ,f : i0 −→ i1 ,g : j0 −→ j1 とする.次は可換である.
T (i0 , j0 )
T (id,g)
T (i0 , j1 )
T (f,id)
T (f,id)
T (i1 , j0 )
T (i1 , j1 )
T (id,g)
一方次が可換である.
T (i0 , j0 )
T (id,g)
(µi0 )j0
T (i0 , j1 )
T (i1 , j0 )
(µi0 )j1
T (id,g)
(µi1 )j0
colimj T (i0 , j)
T (i1 , j1 )
(µi1 )j1
colimj T (i1 , j)
これらを組み合わせて次の図式の実線部を得る.
F (i0 ) = colimj T (i0 , j)
F (f )
(µi0 )j1
(µi1 )j0
(µi0 )j0
T (f,id)
T (i0 , j1 )
T (i0 , j0 )
colimj T (i1 , j) = F (i1 )
T (id,g)
T (i1 , j0 )
T (f,id)
7
(µi1 )j1
T (i1 , j1 )
T (id,g)
実線部は全て可換だから,余極限の普遍性により点線の射が得られる.これを F (f ) と定
める.すると F : I −→ C は関手である.
. .
. ) F (f1 ◦ f0 ) = F f1 ◦ F f0 と F (id) = id を示せばよい.
f0 : i0 −→ i1 ,f1 : i1 −→ i2 を I の射とする.F (f0 ),F (f1 ),F (f1 ◦ f0 ) は次の図
式により定義されるのであった.
F (f1 ◦f0 )
F (i0 )
T (i0 , j1 )
T (i0 , j0 )
F (i1 )
F (f0 )
T (f0 ,id)
T (f0 ,id)
T (i1 , j1 )
T (i1 , j0 )
F (i2 )
F (f1 )
T (f1 ,id)
T (f1 ,id)
T (i2 , j0 )
T (i2 , j0 )
この図式は可換だから,余極限の普遍性により F (f1 ) ◦ F (f0 ) = F (f1 ◦ f0 ) である.
同様に余極限の普遍性により F (id) = id も分かる.
F の定義の仕方から,(µ− )k : T (−, k) =⇒ F は自然変換である.また余極限の普遍性
から,このような F は一意であることも分かる.
この定理によって得られる関手 F を colimj T (−, j) : I −→ C で表せば,更に余極限
colimi (colimj T (i, j)) を考えることができる.一方,i と j を同時に動かしたときの余極
限 colim⟨i,j⟩ T (i, j) を考えることもできる.
定理 7. T : I × J −→ C を関手として各 i ∈ I に対して余極限 colimj T (i, j) が存在する
とする.このとき,colimi (colimj T (i, j)) と colim⟨i,j⟩ T (i, j) のうちどちらか一方が存在
すればもう一方も存在し,colimi (colimj T (i, j)) ∼
= colim⟨i,j⟩ T (i, j) が成り立つ.
8
証明. colimi (colimj T (i, j)) が存在したとする.任意の自然変換 φ : T =⇒ ∆x を取る.
x
ψi0
φi0 j0
ψi1
colimj T (i0 , j)
colimj T (i1 , j)
T (f,id)
T (i0 , j1 )
T (i0 , j0 )
φi1 j1
colimi (colimj T (i, j))
T (id,g)
T (i1 , j0 )
T (f,id)
T (i1 , j1 )
T (id,g)
colimj T (i, j) の普遍性から,ψi : colimj T (i, j) −→ x が一意に存在して図式が可換とな
る.故に colimi (colimj T (i, j)) の普遍性から colimi (colimj T (i, j)) −→ x が一意に存在
して図式が可換となる.従って colimi (colimj T (i, j)) ∼
= colim⟨i,j⟩ T (i, j) である.
逆に colim⟨i,j⟩ T (i, j) が存在した場合も colimi (colimj T (i, j)) ∼
= colim⟨i,j⟩ T (i, j) が
同様にして分かる.
よって,(各余極限が存在すれば) colimi (colimj T (i, j)) = colimj (colimi T (i, j)) とな
ることが分かる.即ち,余極限の順序は交換可能なのである.同様のことが極限について
も成り立つ.
9
一方,余極限と極限の交換については一般には成立しない.次の可換図式を考える.
limi colimj T (i, j)
colimj T (i0 , j)
colimj T (i1 , j)
T (i0 , j1 )
T (i1 , j1 )
T (i0 , j0 )
T (i1 , j0 )
limi T (i, j1 )
limi T (i, j0 )
colimj limi T (i, j)
整理すると次の実線の可換図式を得る.
colimj T (i0 , j)
colimj T (i1 , j)
limi colimj T (i, j)
limi T (i, j0 )
limi T (i, j1 )
limi colimj T (i, j) の普遍性から点線の射が得られる.よって colimj limi T (i, j) の普遍
性から次の射が得られる.
limi colimj T (i, j)
κ
colimj limi T (i, j)
limi T (i, j0 )
limi T (i, j1 )
10
こうして自然に射 κ : colimj limi T (i, j) −→ limi colimj T (i, j) が得られる.一般には,
この射は同型とは限らない.しかし圏 Set では,ある条件の下でこれが同型となること
が知られている.
定義. 圏 C がフィルター圏 (filtered category)
⇐⇒ 任意の有限圏 J と関手 F : J −→ C に対して,ある対象 c ∈ C と自然変換 F =⇒ ∆c
が存在する.
命題 8. 圏 C がフィルター圏
⇐⇒ 圏 C が以下の条件を満たす:
1. C は空でない.
2. 任意の c0 , c1 ∈ C に対して,ある c ∈ C と射 f0 : c0 −→ c,f1 : c1 −→ c が存在
する.
3. 任意の c0 , c1 ∈ C と f0 , f1 : c0 −→ c1 に対して,ある c ∈ C と g : c1 −→ c が存在
して g ◦ f0 = g ◦ f1 となる.
c0
c1
f0
c
f1
c0
f0
c1
g
c
f1
※ この三条件をフィルター圏の定義とすることが多い.
証明. (=⇒) 明らか.
(⇐=) 任意の有限圏 J と関手 F : J −→ C を取る.J の恒等射でない射の個数 n に関
する帰納法.n = 0 のときは明らか.
n > 0 とする.このとき部分圏 K ⊂ J を Ob(K) = Ob(J),かつ K の恒等射でない射
の個数が n − 1 となるものが取れる.帰納法の仮定により自然変換 φ : F |K =⇒ ∆c が取
れる.K に含まれない J の射を f : x −→ y とする.二つの射 φy ◦ f, φx : x −→ c に対
11
して仮定を適用して,射 g : c −→ d を g ◦ φy ◦ f = g ◦ φx となるように取る.
f
a ··· b
x
φa
y
φb
φy
φx
c
g
d
このとき j ∈ J に対して ψj := g ◦ φj とすれば ψ : F =⇒ ∆d が自然変換となる.
定理 9. J を小圏とする.このとき
colim : SetJ −→ Set が有限極限と交換する ⇐⇒ J がフィルター圏
証明. (=⇒) I を有限圏として,T : I −→ J を関手とする.このとき関手 I op ×J −→ Set
が ⟨i, j⟩ 7−→ HomJ (T i, j) により得られる.仮定により
colim lim HomJ (T i, j) ∼
= lim colim HomJ (T i, j)
j
i
i
j
である.colimj HomJ (T i, j) = 1 だから,右辺は limi colimj HomJ (T i, j) = limi 1 ̸= ∅
である.従って左辺も空でないから,ある j ∈ J と x ∈ limk HomJ (T i, j) が存在す
る.limi HomJ (T i, j) = HomJ (colimi T i, j) = HomJ K (T, ∆j) だから,x は自然変換
T =⇒ ∆j を与える.故に J はフィルター圏である.
(⇐=) T : I × J −→ Set は関手で,I は有限な圏,J はフィルター圏であるとする.
⨿
colimj T (i, j) は集合 j T (i, j) = {⟨x, j⟩ | j ∈ J, x ∈ T (i, j)} を同値関係 ∼ で割って得
られる.ここで ∼ は ⟨x0 , j0 ⟩, ⟨x1 , j1 ⟩ に対して
⟨x0 , j0 ⟩ ∼ ⟨x1 , j1 ⟩
⇐⇒ ある射 f : j0 → j, g : j1 → j が存在して T (idi , f )(x0 ) = T (idi , g)(x1 )
で与えられる.⟨x0 , j0 ⟩ の属する同値類を [x0 , j0 ] で表すことにする.
さて,G : I −→ Set に対して lim G ∼
= HomSetI (∆1, G) だったから
lim colim F (i, j) ∼
= HomSetI (∆1, colim T (−, j))
i
j
j
である.τ ∈ Hom(∆1, colimj T (−, j)) を取る.i ∈ I に対して τi : 1 −→ colimj T (i, j)
を τi ∈ colimj T (i, j) とみなせば,τi = [xi , ji ] と書ける.今 I は有限で,J はフィル
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ター圏だから,ある kτ ∈ J と fi : ji −→ kτ が存在する.yi := T (idi , fi )(xi ) とおけば
[yi , kτ ] = [xi , ji ] である.τe ∈ Hom(∆1, T (−, kτ )) ∼
= limi T (i, kτ ) を τei = yi により定め
る.すると [e
τ , kτ ] ∈ colimj Hom(∆1, T (−, j)) ∼
= colimj limi T (i, j) が定まる.この写像
limi colimj T (i, j) ∋ τ 7−→ [e
τ , kτ ] ∈ colimj limi T (i, j) を σ で表す.この σ が κ の逆写
像を与えることを示せばよい.
先ほど κ を構成したときに使用した射に,以下のように名前を付ける.
T (i, j)
νij
µij
colimj T (i, j)
limi T (i, j)
αj
νi
µj
colimj limi T (i, j)
κ
limi colimj T (i, j)
今 η ∈ Hom(∆1, T (−, j)) ∼
= limi F (i, j) とすると図式の可換性から νi ◦ αj (η) = µi,j ◦
νi,j (η) = µi,j (ηi ) = [ηi , j] だから αj (η) ∈ Hom(1, colimj T (−, j)) は αj (η)i = [ηi , j]
を 満 た す .よ っ て [η, j] ∈ colimj limi T (i, j) = colimj Hom(∆1, T (−, j)) を 取 れ ば
κ([η, j])i = κ(µj (η))i = αj (η)i = [ηi , j] が成り立つ.従って σ ◦ κ([η, j]) = σ(αj (η)) =
^
[α
j (η), kα (η) ] = [η, j] となることが分かる.
j
逆に τ ∈ limi colimj T (i, j) = Hom(1, colimj T (−, j)) に対して κ◦σ(τ ) = κ([e
τ , kτ ]) =
αkτ (e
τ ) である.ここで i ∈ I に対して αkτ (e
τ )i = [e
τi , kτ ] = [yi , kτ ] = τi だから κ◦σ(τ ) =
τ である.
定義. J がフィルター圏となるような T : J −→ C の余極限 colim T をフィルター余極限
という.
定理 10. Set ではフィルター余極限と有限極限は交換可能である.
参考文献
[1] Saunders Mac Lane, Categories for the Working Mathematician, Springer, 2nd ed.
1978 版 (1998)
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