謝蕊の論文 - 法政大学 経営学部 李ゼミナール

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謝蕊の論文 - 法政大学 経営学部 李ゼミナール
卸売事業者のリテールサポーティングに関する一考察
——小売店鋪向けの物流センターを中心にして——
謝蕊
1、 はじめに
1.1
研究対象の設定
日本の流通構造には、卸売業が昔から重要なプレーヤーとして存在している。
20 世紀 60 年代に林周二は『流通革命』のなかで「問屋不要論」を唱えて以来、
流通チャネルの中間に位置する卸売業の存在価値を疑う論説が少なくない。
しかしながら、「問屋無用論」が提起されてから既に半世紀が経過している
現在の日本の流通業界には、卸売企業が中間流通業者として依然重要な役割を
担っており、一定の存在感を維持している。その存立根拠は一体何だろうか。
卸売企業はどんな独特な機能を持っているか。筆者はこの問題意識を持ってい
る。そして、時代の変遷や流通環境の変化に伴って、卸売企業の機能・役割も
絶えず、変革し続けてきている。すなわち、従来の生産側のチャネラーとして
の存在から、小売側のサポーターとしての存在に変わっていると認識されてい
る。小売側のサポーターの役割を果たすために、伝統的な卸売機能に加えて、
小売企業の仕入物流業務を代行するといったロジスティクス機能が重要視さ
れている。今日の卸売企業の存在基盤となっている。本研究はこうしたロジス
ティクス活動の要となる物流センターに焦点をあてて、卸売企業はどのように
リテールサポーティング機能を果たし、競争優位性を維持しているのかを、文
献サーベイとケーススタディを通じて考察していく。
1.2
研究の背景と問題意識
卸売事業者は、商品流通の過程で、製造と小売の中間に位置する再販売活動
を行う事業者である。メーカーから商品を仕入れ、小売業者に商品を再販売す
る事業者であるが、製造業者と小売業者の間に位置することで、どのような商
品が製造されているか、またいつ製造されるかといった情報と、どのような商
品が売れているかといった情報の双方を知り得る立場にあり、商品の製造から
消費に至る流通過程で重要な役割を果たす。
日本の江戸時代に、呉服や米などの生活物資は、大阪など大生産地の問屋→
消費地の問屋→小売商人という流れで流通していた。その伝統的な仕組みは現
在までずっと残っている。それで、「日本の流通は、問屋という存在なしに語
ることはできない。」(小林,2008)という認識がある。
こうした歴史的背景のもとで、日本の卸売業は二つの特徴をもっている。一
つは、中小の卸売業が非常に多い。2007 年商業統計調査から卸売業において
商業活動に占める中小企業の地位をみると、従業員数 99 人以下の中小規模事
業所は 33 万 2161 事業所で全体の 9 割を占める。もう一つは、業種型流通と呼
ばれるメーカー,卸売業,小売業というタテの流れの中で,薬卸,酒卸,米卸
といったように、限定された分野のみを扱う業種卸が多い。よって、商品群ご
1
とに流通形式が異なる。
20世紀90年代以降、日本建値制度の崩壊と組織小売業の成長に伴って、卸売
業はメーカーの要請と支援のもとで行動する傾向が強いという状況から小売
企業のニーズへの対応を中心に行動するように変化してきている。
同時に、インターネットの普及や、メーカーと消費者との直接取引の増加に
より、「卸売機能の担い手は、近年卸売業から、チェーン小売業及びサードパ
ーティ・ロジスティクス(3PL)へと(一部ではあるが)移りつつある」(田
島,2001)。結果として「中抜き」といわれる、卸売業者を通さない取引が増
加している。例えば、2010年までに売上高7兆円を達成し、小売業として売上
高で世界10位以内に入ることを目指すイオン・グループは、メーカーとの直接
取引によって、いわゆる“卸の中抜き”を進めると同時に、物流業者へのアウ
トソーシングを実施している。卸売業を取り巻く経営環境は、一旦消えていた
「問屋不要論」や「卸中抜き論」(林,1962)といった議論は再び浮上するよ
うになった。
しかしながら、これら卸売流通・卸売業者への消極的、否定的見解があるも
のの、卸売流通は依然として存在している。「経済社会の発展過程の中で、生
産部門と消費部門を繋ぐための様々な市場における取引関係の中で卸売流通
は確固たる一定の役割を果たしてきた」(西村,2009)。そして、主要な卸売企
業近年の売上高の成長ぶりを見ると、業績は堅調な状態に保っていることがわ
かる(図1)。「いつの日か、卸は消えていく」とも言われている卸売業が、
厳然として経済社会に存在しているのは何故であろうか。その原因は卸売業の
機能変化に求めることができると考える。
図1
主要卸売企業の業績の推移
単位:百万円
売 上 高
10000000
国分
8000000
日本アクセス
6000000
加藤産業
Paltac
4000000
菱食
2000000
Happinet
サンリオ
0
2010
2011
2012
2013
2014
スズケン
出所:各企業のオフィシャル・ウェブサイトより筆者作成
一般に、卸売業の機能には主に調達・販売機能、物流機能、情報機能、金融・
危険負担機能に分けているが、取引環境の変化に伴って、一部の機能は大きく
変化してきている(表1)。
表1
卸業者の機能と変化
2
調達・販
売機能
物流機能
従来
メーカーから商品を調達し、メーカーに代わって販路
を開拓して小売業者に販売する
現在
消費者が求めている商品、消費者の視点から見て売れ
る商品を探し出して小売業者に紹介するといった「川
下発想」がより重視されている
従来
メーカーから大量に仕入れた商品を保管し、包装加工、
仕分けをして小売業者へ配送する
共同配送や多頻度小口配送など、効率と鮮度管理を重
視する「川下」からの要請が強まっている
メーカーに対しては、どのような商品がどのくらい売
れているかなど新製品開発や生産調整に役立つ情報を
提供している。
小売業者に対しては、売れ筋の商品や新製品の情報を
提供したり、店舗経営のためのアドバイスをする、い
わゆるリテールサポートの機能を果たしている。
商品が消費者に購入される前の段階でメーカーに代金
を支払い、メーカーが次の生産のために投資できるよ
うにする
最終的に商品が売れずに代金が回収できなかった場合
の危険負担をする
現在
情報機能
従来
現在
金融・危
険負担機
能
金融
危険負
担
出所:棚部(2000)P.148より加筆修正
今日では、以上の機能の一部をメーカーや小売業、あるいは3PL業者が代替
しつつあるので役割は次第に弱くになっている。各大手卸売業者の競争戦略を
見ると(表2)、今後の卸売業者に最も重視される機能は物流機能と情報提供
機能(リテールサポート機能)と考える。例えば、食品卸最大手国分は「小商
い」という精神のもと、業態ごとの異なるニーズに細かに対応している。フル
チャネルに対して食品を供給している同社は「欲しい物を欲しい人に届ける機
能は小売業支援=リテールサポートという問屋機能の原点なのである」という
ことを強調している。その他、日用雑貨品卸最大手のパルタックは「顧客満足
の最大化と流通コストの最小化」というコーボレートスローガンを掲げている。
同社は小売業者へ商品を届けるだけではなく、効果的なマーチャンダイジング
機能と店舗作業の低減に貢献するロジスティクス機能をも提供する中間流通
業者を目指している。さらに、玩具卸最大手ハピネットは、「中間流通業のノ
ウハウを結集した“最適流通システム”を基盤に、エンターテインメント商材
を日本全国へ届ける」という強みを持っている。
表 2 大手卸売業の主な事業内容
卸売企業
事業内容
国分
①マーチャンダイジング、②リテールサポート、③物流、
④情報システム、⑤品質管理
ハピネット
①販売支援システム、②物流システム、③情報システム
菱食
①ものづくり、②リテールサポート、③ロジスティクス、
3
④情報力
④
日本
本アクセス
①
①リテール
サポート、②マーチャンダイジ
ジング、③ロ
ロジ
ス
スティクス
、④情報シ
システム
伊藤
藤忠食品
①
①食料品卸
売、②物流
流システム、③情報シ
システム、④
④マ
ー
ーチャンダ
イジング
加藤
藤産業
①
①ロジステ
ィクス、②
②マーチャンダイジン
ング、③リテ
テー
ル
ルサポート
パル
ルタック
①
①ストアソ
リューショ
ョン、②ロジ
ジスティク
クスソリュー
ーシ
ョ
ョン、③SC
L 事業(物
物流受託)
あら
らた(元伊
伊藤伊) ①販売・店頭
①
頭マーケテ
ティング機能
能、②物流
流機能、③カ
カテ
ゴ
ゴリーマネ
ジメント機
機能
出所
所:各企業
業のオフィシ
シャル・ウェブサイト
トより筆者
者整理
以上の事例
以
例から見ると
と、大手卸売
売の各社は
はいずれも先
先進的なロ
ロジスティク
クス
機能
能を通じて取引小売業
業者にリテールサポー
ート機能を
を提供してい
いる。
2000 年に、米国の研究
究者 Dougllas M Lamb
bert は、ロ
ロジスティクス機能の
の関
連活
活動として以下の 14 点を挙げて
てきた。そ
それは①顧客
客サービス
ス活動、②需
需要
予測
測活動、③流
流通コミュ
ュニケーション活動、④在庫管理
理活動、⑤
⑤マテリアル
ルハ
ンド
ドリング活
活動、⑥受注
注処理活動、⑦部品・サービス支
支援活動、⑧工場・在
在庫
拠点
点選定活動
動、⑨調達活
活動、⑩包装
装活動、⑪
⑪回収活動、
、⑫廃棄活
活動、⑬貨物
物輸
送活
活動、⑭倉庫
庫・保管活動
動である。以上の関連
以
連活動はどの
のように実
実現されるか
か。
その
のカギを握
握るのは物流
流センター
ーである。物流センター
物
ーはプラッ
ットフォーム
ムと
して
てすべてのロジスティ
ィクス活動
動の実現をサ
サポートす
するわけであ
ある。
確
確かに、
物流
流センター
ーを運営して
ている企業
業は卸売企業
業だけでは
はなく、近年
年急
成長
長している3PL企業も高品質・高
高効率なロジスティク
クスサービ
ビスを小売企
企業
に提
提供している。しかし
し、公正取
取引委員会は
は2013年8月
月に発表し
した『物流セ
セン
ター
ーを利用して行われる
る取引に関
関する実態調
調査報告書
書』の中に物
物流センター
ーの
運営
営委託状況
況に関する調
調査(図2)を見ると、調査対象
象小売業者
者259社のうち、
247社は物流セ
センターを運営してい
いる。そし
して、その2247社のうち
ちに、216社
社
(87.4%)が運
運営委託を
を行っていた
た。その委
委託先は取引
引関係があ
ある卸売業者
者へ
の委
委託が549拠
拠点(51.22%)、外部
部の物流事業
業者への委
委託が436拠
拠点(40.7%
%)、
卸売
売業者はや
やはり高い比
比率を占め
める。
図2:物流セン
ンターの利
利用状況と運
運営委託状
状況
小
小売業者によ
よる物流セン
ンターの運営
運営してい
運
る
2.3%
95.44%
2.3%
全体(NN=259)
運営してい
運
な
ない
無
無回答
0%
20%
400%
60%
4
80%
1000%
物流センタ
ターの運営委
委託
12.1%
0.4%
87.4%
全
全体(N=247)
0%
20%
ある
40%
60%
ない
800%
100%
無回答
物流センターの運営委
委託先
51.2%%
40
0.7%
1.9%
6.1%
全体(N=1072)
0%
50%
取引関係がある
取
る卸売業者
外部
部の物流事業者
者
取引関係がない
取
い卸売業者
その
の他
100%
出
出所:公正取引
引委員会(2013)P11~14より抜粋
その状況が発生する原
そ
原因は何だ
だろうか。卸売業者は小
卸
小売業者向
向けの物流セ
セン
ター
ー運営においてコア・
・ケイパビリティを持
持ち、優位性
性を有する
るのか。この
のコ
ア・
・ケイパビリティは何
何だろうか。そして、卸売業者の
の物流セン
ンターは如何
何な
る特
特徴があるか。その実
実態を解明ことによっ
って、卸売企
企業のリテ
テールサポー
ーテ
ィン
ングのあり方を考察す
することが
が本研究の目
目的である。
1.3
構成
論文の構
本研究では
本
は、卸売企業
業の物流センターの運
運営状況に着
着目して、物流センタ
ター
は卸
卸売企業がリテールサ
サポート機
機能の基盤に
になってい
いるのか。そ
そして、物流
流セ
ンタ
ターを運営
営することに
によって、どのような
ど
な優位性を実
実現してい
いるのかを明
明ら
かに
にする。
本
本論文の構
構成は以下の
の通りであ
ある。
第
第2章では卸
卸売業の機
機能と機能の
の変化に関
関する既存研
研究のサー
ーベイを行う
う。
続
続いての第
第 3 章では、①情報シス
ステムとそ
その関連要素
素、②物流
流センター内
内作
業シ
システムとマテハン、③商流とのリンケー
ージ、④店舗
舗への配送
送サービス、
、⑤
付帯
帯サービスの 5 つのサ
サブシステムを中心し
して、ケース
スからの発
発見事実を述
述べ
る。
さ
さらに、第
第 4 章では、事例研究
究を踏まえて
て考察・検
検討を行う。
最
最後に、第
第 5 章では、結論を述
述べ、本研究
究の理論的
的貢献に言及
及する。
5
2、先行研究のレビュー
2.1 卸売企業の諸機能
田島(1965)によると、流通機構とは「商品を社会的に流通させるために、
水平的ならびに垂直的な分業関係によって、必要な機能を遂行している流通機
関をメンバーとする社会的構造体」である。卸売業者は重要な流通機構の一種
として社会的な流通機能を担っている。
図3
一般的な流通経路
メーカー
卸売業
小売業
消費者
出所:筆者作成
図 3 で示されているように、卸売業とはメーカーと小売業の間に位置するも
のであり、メーカーから商品を仕入れ、小売業に再販売する事業者である。す
なわち、卸売業者の基本的な機能の一つは、生産者と小売者をつなげる流通機
能である。
流通は、生産と消費の懸隔を架橋することを役割(機能)とする。生産と消
費の懸隔について、石原(1997)、橋本・田中(2006)などは、①所有の懸隔、
②空間の懸隔、③時間の懸隔、④情報の懸隔の4つに整理した。
Clark(1922)は、マーケティング機能を、①交換機能(需要創造、集荷)
、②
物的供給機能(輸送、保管)、③補助的機能(金融、危険負担、市場情報、標
準化)の3つに分類した。Clark の分類法に基づきながら、より詳細な分類を
試みた久保村・荒川(1974)は、①需給接合機能(市場評価、商品調整、情報
伝達、取引)、②物財移転機能(運送、保管)、③助成的機能(流通金融、流通
危険)の3つに整理した。また、田村(2001)は、マーケティング機能①所有
権機能、②危険負担機能、③情報伝達機能、④物流機能の4つに整理している。
渡辺(2008)はこれら一連の研究成果を踏まえて、商流、物流と情報流の視
点から流通機能を①需給結合機能、②物流機能、③情報機能及び④補助的機能
に整理した。寺嶋(2010)は、需給結合機能すなわち商流に直接携えるのはた
だ卸売業と小売業2種類の事業者である。
以上の既存研究をまとめると、卸売企業は流通業者としての流通機能は主に
①需給結合機能(販売機能、購買機能、価格形成機能)、②物流機能(輸送機
能、保管機能、荷役機能、包装機能、流通加工機能)、③情報機能(情報収集
活動、情報提供活動、情報ネットワーク化活動)、④補助的機能(危険負担機
能、信用機能、経営指導機能)に整理することができる(渡辺,2008)。
その中に、物流機能、情報機能と補助的機能の提供者は卸売業者だけではな
6
く、3PL 事業者、情報システム事業者、金融関連事業者なども存在する。田
島(2001)によると、卸売機能の担い手は、近年卸売業から、チェーン小売業
及びサードパーティ・ロジスティクス(3PL)へと(一部ではあるが)移りつ
つあると指摘する。矢作(1996)、渡辺(1997)、高宮城(1997)、高嶋(1997)
は、1980 年代以降、卸売企業の戦略行動は品揃えの総合化、業界再編、リテ
ールサポート機能の高度化に集中していると分析する。
ここ数年、組織小売業の台頭と拡大によって、卸売業従来の機能は弱まって
きている。そこで、数多くの卸売企業は自社の存立基盤と競争力の源泉を強化
するために、リテールサポート機能に求めるようになっている(表2)。
リテールサポートについて、青木(1998)は「メーカーや卸売業ないしチェ
ーン本部が取引先である小売店に対して行う支援とそのシステムのこと」と定
義している。また、杉本・中西(2002)は「メーカー、卸売、その他専門会社
によって取引先企業や(産業財・生産財分野の)川下流通業者へ提供される支
援活動の総称」がリテールサポートであるという見解を示している。宮下(2010)
は、リテールサポートは5つのメニューから構成されると考える。すなわち①
品揃え提案メニュー、②売り場作り提案メニュー、③販売促進提案メニュー、
④システム開発メニュー、⑤教育・指導提案メニューの5つである。これらは、
いずれも小売業への支援活動である。
渡辺(1997)は、卸企業にとって小売り企業の購買代行機能の成功的遂行が
重要な戦略課題で、そのためにロジスティクス能力と品揃え調整能力が必要不
可欠だと指摘する。
リテールサポートの効果について、杉本(2009)は既存の研究に基づき①取
引先小売企業との共栄共存のための方策となる;②水平的競争及び段階間競争
の手段として機能しうる;③取引先とのパートナーシップ構築の手段となる可
能性があるという3つに整理した。
寺嶋(2010)は渡辺(1997)の研究内容に則して、広義の意味からリテール
サポート機能の内容を整理した(表 3)。そして、彼はリテールサポート機能
が存在することを前提として小売業とメーカー・卸売業間のキャップを分析し
た。「実際の卸売業の事業内容を見るまでもなく、リテールサポート機能は今
や最も重要な機能の1つとして扱われている」を指摘した。
表 3 リテールサポート機能の内容
機能
内容
情報機能 ①商品情報の提供(カテゴリー内の競合、商品特性など)、②市
場情報の提供(全国の販売動向、品揃え等)、③商圏情報の提供
(得意先及び競合店の状況)
マーチャ ①品揃え・棚割り提案、②特売を中心したプロモーションの提案、
ンダイジ ③エンド計画の作成、④POP やチラシの作成など、⑤商品補充業務、
ング機能 ⑥PB など自主開発商品の企画・提案、⑦店舗診断・競合分析等の
経営指導
ロジステ ①需要予測・販売予測、②自社専用センター(一括物流センター)
ィクス機 の運営、③リサイクルなどの回収系システムの構築
能
出所:寺嶋(2010)より抜粋
7
卸売業の機能の変化で、現在は、リテールサポートが最重要な機能になって
いる。リテールサポート機能の中には、ロジスティクス機能が含まれている。
リテールサポート機能は、小売業との間で文化・戦略・情報を共有化できる、
つまりお互いに共生するというスタンスで恊働できれば、より効果を発揮する。
取引の決まった商品は確実に JIT(ジャスト・イン・タイム)で届けられる機
能がないと、卸として評価されない。逆に、物流を起点として取引が拡大する
こともある。そういった意味では、物流とリテールサポート、それらを支える
IT は三位一体の関係にあり、どれが不足しても中間流通業は成り立たないの
である(矢野,2002)。
既存の諸研究を通じて、リテールサポートは卸売企業の重要な生き残り戦略
であることとそれを実現するためにロジスティクス機能が必要不可欠な機能
がわかるものの、卸売企業はどうやってロジスティクス機能を実現することを
探究しなければならない。
2.2 卸売企業の古典的存在意義
卸売業者の存立根処について、Hall(1948)は、卸売業者の存立根拠として、
卸売業者が取引関係を形成していく上で、第1に取引総数最小化の原理(図4)、
そして、第2に不確実性プールの原理を提示した。
図4
取引総数最小化の原理
出所:田島ほか(2001)より
仮に、10 社のメーカーと 50 社の小売業が直接取引し、かつ商物一体と仮定
すると 10×50=500 通りの取引と物流が存在する。しかし、そこに中間流通と
して卸売業が入った場合、10+50=60 通りで済むのである。
8
田島ほか(2001)は①市場特性、②サプライチェーン、③在庫管理、④鮮度
維持管理の4つの視点から卸売業の存在意義を分析した。市場の不確実性には
きめ細かく対応するためには、配送を多頻度化することで商品の鮮度を維持し
ながら、配送される物量は少量化することで在庫リストを減らことが必要であ
る(田村,1989;高嶋,1994;矢作,1996)。
松岡・首藤(2002)は品揃えを豊かにすることと小売業の健全な競争をサポ
ートすることから卸売業の役割を強調している。そして、品揃え形成能力は将
来の顧客ニーズを予測する能力であり、蓄積された情報量と必要な情報を入手
できるチャネル数によると考えられる(石井,2003)。
以上の古典的な存在意義に関する研究以外に、何人かの研究者は卸売企業の
現代的な存在意義も明らかにした。
2.3 卸売企業の現在の存在意義:ロジスティクス上の役割
卸売業を取り巻くロジスティクス環境の変化について、寺嶋(2001)は、①
流通経路の短縮化、②チェーン小売業の台頭、③サードパーティ・ロジスティ
クス(3PL)という3つの要素に注目した。寺嶋は、昨今商流における卸売機
能とシンプルな物流機能の大半がチェーン小売業によって統合・吸収されつつ
あるため、残された卸売業の最大かつ魅力的な領域は高度なロジスティクス機
能の提供にあると指摘する。
しかし、ロジスティクス機能と言えば、物流企業という担い手が従来から存
在する。田島ほか(2001)によると、物流企業と競争するために、卸売企業も
先進的で大規模な物流センターを構築しなければならないのである。ところが、
全体数から見た場合、その数はわずかである。未だに商流を前提とした営業倉
庫的設備も多く、地域によっては物流品質のばらつきがあるといった問題は深
刻な状態である。一方、多くのメーカーは、サプライチェーン・ロジスティク
スの改革を行っているが、それに十分に対応できるロジスティクス能力を有す
る卸売企業は少ない。従って、「今後、卸が展開する物流戦略によってはサプ
ライチェーン・ロジスティクスの主役は物流業者に握られる可能性が十分ある」
と、田島らは警告していた。
田島らの悲観的予想と異なる見解を示したのは金(2009)、臼井(2001)な
どの研究である。
金(2009)は、「多頻度少量配送と多店舗展開を成長の軸とする小売企業に
とっては、広域的に対応できる能力を持っている卸売企業を戦略提携のパトー
ナーとして選ぶ可能性が高い」と指摘している。すなわち、卸は新たな中間流
通産業を目指すためにロジスティクス戦略を採用しなければならない。その戦
略とはメーカーから小売業の店頭、そして消費者までのサプライチェーンに効
率的なロジスティクスシステムを構築することである。もっとも、その構築に
物流以外のマーチャンダイジング、仕入管理などの機能も不可欠である(臼
井,2001)。
そのロジスティクスシステムを構築するために、小売企業の物流ニーズの変
化に対応しなければならない。商圏人口の減少や高齢化の進展、また単身者世
帯の増加など各小売企業を取り巻く環境が大きく変化する中で、従来の商品政
策と流通戦略の抜本的な改革なしでは、収益の確保は厳しいといえる。一方、
9
消費者は鮮度と品質へのこだわりは増し、購買単位が小口化するなど消費者の
要求はますます高度化しつつある(金,2010)。
そこで、商品の生産は、多品種少量が主流となってきている。その多品種少
量生産は、商品サイクルを短期間化する。また、この多品種少量生産に伴って、
最終届け先への輸送方法は、従来の大口輸送から、必要な商品を必要な時必要
な量輸送する多頻度小口輸送へと変化してきている(岩尾,2009)。その「多
頻度小口」のニーズに対応するために、卸売企業は配送、流通加工、在庫管理
などの一連の物流活動に力を注げている。物流センターはその一連の物流活動
の基盤である。換言すれば、物流センターはロジスティクス機能を実施するた
めのプラットフォームである。
2.4 卸売企業の物流センター運営
田島ほか(2001)は卸売業の物流体系を明らかにした(図 5)。彼らは最も
狭義の卸売物流を物流センターにおける作業であると捉える。
図5
卸売業の物流体系
出所:田島ら(2001)より
臼井(2011)は、卸売業の物流センターは、①汎用型物流センター、②業態
対応型物流センター、③特定企業専用型物流センター、④共同物流型物流セン
ター(一括物流)の 4 つに分かれる(図6)。
汎用型は複数企業を相手とするセンターである。一箇所の物流センターで
様々な業態に対して出荷する。通常、卸売業のセンターといった場合、汎用型
10
のことを指す。業態対応型は物流サービス水準の違いから特定業態に絞った物
流センターで、コンビニ、業務用などの専用センターがそれに該当する。特定
企業専用型は特定企業の専用物流センターで、まとまった物量を扱う重要な取
引先用に構築するケースがある。そこでは相手側のオペレーションに合わせて
センターを運用している。最近は、3PL として卸売業が小売業の物流センター
の運営を担うケースが増えている。これが商物分離の共同物流型で、一括物流
と言われる。
図6
卸売業の物流センターの類型
11
出所:臼井(2011)P.81 より
いずれのタイプの卸売企業の物流センターは、そのオペレーションの遂行に
は、情報システムと庫内システムを整備しなければならない。田島(1986)は
「卸売企業にとして情報システムの高度化による情報武装が必要である」と指
摘した。
卸売企業の物流センターの情報システムと庫内システムについて、矢作
(1994)は卸の情報システムの特徴について、POS データのフィードバックと
あわせて、情報を有効に活用するための仕組み、例えば本部と店舗の統合担当
者の存在などに注意しなければならないと考える。寺嶋・椿(2008)は、POS
データ、在庫データ、コーザルデータを用いて、専用センターにおける在庫の
是非すなわち TC 及び DC の選択の可能性について検討している。
秋山(2003)は、小売企業の受発注を取り巻く課題を列挙した。すなわち、①
発注に時間がかかりすぎる;②商談の後から仕入価格に差異が発生しトラブル
となる;③発注ミスが発生する;④指定納品数量が守られない;⑤発注に手が
回らず、取引先任せになる;⑥発注間に合わせが頻度にあり、販売業務に集中
できない;⑦未納品が解らず、欠品になってしまう;⑧指定売価が守られない;
⑨商品の押し込みで、売れ筋商品が品切れしていても解らない;⑩伝票類の紛
失が発生し、支払い照合に時間がかかる;⑪データ入力に時間とコストがかか
りすぎる。これらの課題を解決するためには有効な情報システムやオペレーシ
ョンシステムの構築運営が重要であり、卸売企業はこの点で、大きな役割を果
たすことができるとされる(秋山,2003)。
2.5 小売企業のロジスティクスと物流センター
少子高齢化や景気低迷による日本国内の消費市場が減少の傾向にある。この
結果、日本の小売業界の業績は年々厳しくなりつつある。小売企業の経営状況
について、木島(2012)は、
「売り場生産性(売り場面積1㎡当たりの売上高)
を見ると、総合スーパー・食品スーパー・ドラッグストアのいずれにおいても
低下基調にある。
」と指摘した。根木(1998)と本藤(2010)は、今後小売業
は小商圏(1店舗当たりの支持人口の少ない状態)に対応した経営戦略及びマ
ーケティング戦略を展開していかなければならないと分析した。そのために、
小売企業の多くは、それぞれの企業再生に向けて流通戦略を再構築している
(金,2007)。
小売は必要な商品を必要な時に適正な価格で、欠品せず店頭に並べることが
ビジネスモデルである。そのために当然、高度なロジスティクスシステムが不
可欠となる。小売業の物流センターは消費者に対応する店舗の後方支援機能を
実現するための装置である。(臼井,2002、2005)
寺嶋(2012)によると、食品や日用雑貨品といった最寄品を取り扱うチェー
ン小売業は、今やその多くが自社専用物流センター(以下専用センター)を開
設・運営している。
また、臼井(2011)は小売企業の専用センターの類型を明らかにした(図 7)。
小売業専用センターを大別すると、在庫型センター(以下 DC)、通過型センタ
ー(以下 TC)になり、さらに TC は店別仕分型(ベンダー仕分型)、総量納品
12
型(センター仕分型)の二つになる。
専用センターの設置は、中田 (1992) によると「標準化された形での商品の
安定調達」を求めたことが始まり、当時は通過型のセンターが主流であった。
しかし、臼井(2005)は在庫型センターの増加を最近の傾向として考察した。さ
らに、臼井(2007)は直接取引や通過型の利用可能性についても言及している
ように、近年では専用センターの流通機能は拡充していることがわかる。
専用センターを設置することの意義について、臼井(2011)は、①仕入原価
の削減、②店舗オペレーションコストの削減、③サプライチェーンコストの削
減、④センターフィー徴収の 4 つのメリットがあると整理している。寺嶋(2012)
は臼井の研究を踏まえ、より具体的に①配送の効率化、②ピッキングの削減、
③荷受け作業の効率化、④品出し作業の効率化、⑤店頭在庫の削減、⑥欠品・
品切れの削減に分けられる。
既存研究の知見から明らかになるように、小売業向けの物流センターは小売
業にとって生命線としての存在であり、重要な意味を持つ。そして、小売店舗
向けの物流センターの運営主体の担い手として卸売企業はどのように物流セ
ンターを運営して如何なるサブシステムを構築しなければならないのか。それ
ぞれのサブシステムはどのように機能しているのか。センター運営を通じて、
リテールサポーディングを実現しているのか。これらの問題設定のもとでケー
スの選定と収集情報の整理と分析を進めた。
図7
小売企業の専用センターの類型
13
出所:臼井(2011)P83より引用
3、
事例研究からの発見事実
3.1 研究手法
本研究は、ケーススタディ手法を用いて研究を進める(Eisenhardt,1989;
Yin,1996)。
ケースの収集方法は①既刊ケースの整理と②フィールド調査である。
14
本研究のケース対象の選定にあたり、主に日本の代表的な消費財卸売企
業を選んだ。具体的には国分、三菱食品、日本アクセスなどの 13 企業で
ある(表 4)。
ケースの収集について、主に 2 つのソースから行った。1つは高い評価
を受けている流通業界の業界誌——『月刊ロジスティクス・ビジネス』
(LOGI-BIZ)に 1998 年から 2013 年まで掲載された卸売企業の物流センタ
ー運営に関する事例である。同誌は数ある物流誌の中で、メーカーや流通
業などの荷主企業の物流、ロジスティクス・SCM マネジャーを対象とした
マネジメント誌として、またユーザーとサービスプロバイダーの双方をカ
バーする唯一の専門誌として高い評価を得ている。また、同誌は毎刊で2
〜3社ケースを掲載している。それらの企業ケースはすべて聞き取り調査
と現場観察に基づくありのままの記述であり、読者に疑似的体験を提供す
る方針を貫くものである。筆者はこの雑誌掲載のケーススタディはほぼあ
りのままの記述であるため、資料として信頼性が高く、本研究のケースに
用いることは妥当だと判断した。
もう 1 つのソースは、筆者実施したフィールド調査である。筆者は以下
の企業を対象に訪問して、半構造化聞き取り調査を行った。
① パルタック RDC 横浜(2014 年 7 月 28 日)
② 丸和運輸機関の神奈川 MK 共同配送センター(2014 年 9 月 10 日)
③ 日本通運原木 BILT−2 物流センター(2014 年 9 月 10 日)
3.2 対象企業の概要
本研究に取り上げる企業は以下の 13 企業である。
表4
研究対象企業の一覧
企業
概要
①国分
業態:卸売業
業種:酒類・食品・関連消費財にわたる卸売
規模:売上高−1,566,762 百万円
従業員数−4789 名
取扱品目:57 万アイテム
②三菱食品
業態:卸売業
業種:加工食品、低温食品、酒類及び菓子の卸売
規模:売上高−2,388,226 百万円
従業員数−4299 名
取扱品目:1.6 万アイテム
③加藤産業
業態:卸売業
業種:総合食品の卸売
規模:売上高−7,715 億円
従業員数−1000 名
④ヤマエ久野
業態:卸売業
業種:加工食品・冷凍食品・小麦粉・酒類等の卸売
規模:売上高−345,935 百万円
従業員数−2027 名
15
⑤日本アクセス
業態:卸売業
業種:食品、水産物、畜産物、花卉等の卸売
規模:売上高−1 兆 7,140 億円
従業員数−3523 名
⑥パルタック
業態:卸売業
業種:化粧品・日用品、一般医薬品の卸売
規模:売上高−831,899 百万円
従業員数−2250 名
取扱品目:6.5 万アイテム
⑦スズケン
業態:卸売業
業種:医療用医薬品、試薬、医療用機器、医療材料、食品などの販売
規模:売上高−19,882 億円(連結)
従業員数−15,618 名(連結)
⑧東邦薬品
業態:卸売業
業種:医療用医薬品、検査薬、医療機器などの販売
規模:売上高−1 兆 1,403 億 64 百万円(連結)
従業員数−8276 名
取扱品目:3.5 万アイテム
⑨ハピネット
業態:卸売業
業種:玩具、映像・音楽ソフト、ビデオゲームハード・ソフト、アミュ
ーズメント商品などの販売
規模:売上高−2068 億円(連結)
従業員数—972 名(連結)
⑩サンリオ
業態:卸売業
業種:ソーシャル・コミュニケーション・ギフト、グリーティングカー
ド、ビデオソフトなどの販売
規模:売上高−77,009 百万円(連結)
従業員数−746 名
⑪トーハン
業態:卸売業
業種:出版物などの卸売
規模:売上高−5039 億 0300 万円
従業員数−1662 名
⑫丸和運輸機関
業態:物流業
業種:サードバーティ・ロジスティクス事業、物流業、倉庫、情報シス
テム開発及びコンサルティング事業など
規模:売上高−482 億 91 百万円(連結)
従業員数−2250 名(連結)
⑬日本通運
業態:物流業
業種:物流業(陸運、海運、航空輸送、倉庫)
、旅行業など
規模:売上高−1 兆 6171 億 85 百万円(連結)
従業員数−66924 名(連結)
出所:各企業のオフィシャル・ウェブサイトより
16
3.3 発見事実
第2章の既存研究のレビューから、リテールサポートサービスの内容は主に
情報支援機能(商品情報の提供、市場情報の提供、商圏情報の提供など)、マ
ーチャンダイジング機能(品揃え提案、棚割提案、店内販促支援など)とロジ
スティクス機能(一括物流、需要予測・販売予測など)が含まれることが分か
る。そして、リテールサポートの遂行には、物流センターが重要な装置になる。
物流センターの運営には情報システム、センター内の作業システムとマテハン
(マテリアル・ハンドリング)、商流とのリンケージ、店舗への配送サービス、
付帯サービス5つのサブシステムを含む。以下では、この 5 つのサブシステム
の実態をケースから抽出してみる。
3.3.1
情報システムとその関連要素
小売業の情報化が進むに合わせて、それに対応できる卸売業の情報化は不可
欠になっている。企業活動すべてのオペレーションをコストダウンし、取引先
へのサービス向上を行うために情報化の果たす役割は非常に大きいものがあ
る。情報化を進めるにあたってはまず、最も効果が高いところから優先的に取
組むことを考えねばならない。卸売業では、受発注に関連の仕入業務は最優先
と考える。仕入業務は流通業における中心的な部分である。仕入れに関する管
理をうまく進めるために、先進的な情報システム必要である。仕入管理のポイ
ントは顧客の求める商品を如何に的確に仕入れ、速やかに販売できる体制を継
続できるかだが、それには優れた受発注のシステムが重要である。そのために、
各卸売企業は情報システムの構築方面に力を注ぐ。
例えば、総合食品卸 4 位の加藤産業は前世紀 90 年代から物流と情報システ
ムの高度化を積極的に推進してきた。同社は 1996 年に独自の WMS(倉庫管理シ
ステム)——「KALS」を開発した。日本全国の物流センターにそれを導入して業
務を標準化し、ノウハウの蓄積や共有化を追求している。そして、2006 年に
は発注管理システム「PARS」を稼働させた(図8)。この仕組みの中で「KALS」
は、商流系基幹システムの「KOSMOS」や、需要予測システムの「CPM」と共に、
全体の情報システムの構成要素と位置付けられた。
「KALS」の特徴は以下の 4 つある。①スキャン検品システムによって、EDI
体制の確立により事務作業を減軽している。納品精度をより確実に、スピーデ
ィーになる。在庫管理の業務制度をも向上する。②鮮度管理の方面には、賞味
期限の入力により、入荷期限日と出荷期限日を同時管理できる。常に鮮度をチ
ェックしている。③無線 LAN システムで入荷から出荷まで業務管理を効率化す
る。作業が正確で、各業態に応じて対応可能になる。情報処理のスピードと精
度をアップさせる。④作業管理システムによって、作業者管理を徹底し、物流
業務の効率化図る。確実な情報で既決既断が可能になる。
出版物取次大手トーハンは、書店と出版社双方をつなぐネットワークを構築
し、情報を共有している。分析したデータを相互に活用することで、読者ニー
ズを満たす最適な商品供給を実現した。書店向け情報SAシステム「TONETS V 」
には「個店の状況に応じて売れた商品を補充するかどうかの判断」「自店で欠
品している売れ筋商品の提案」「自店で動いていない在庫品の抜き取り提案」
17
など、個店毎の最適な品揃えを推奨する「適在適書」機能を搭載している。販
売効率の高い店舗運営をサポートする。また、個々の商品特性や需要予測に基
づいた配本と発売後の追加送品までを一体化した適時適量の商品供給施策を
推進し、取引先書店の販売機会最大化を目指している。一方で、出版社向けの
ネットワーク「TONETS i 」では、店頭での販売実績や在庫データをマーケッ
トに照らして分析した情報を提示している。この情報を出版社とトーハン両者
で共有し、出版社の商品政策に活用する同時に、売り時を逃さない増売施策を
推進する。
図8
加藤産業の発注管理システム「PARS」
出所:月刊ロジスティクス・ビジネス(LOGI-BIZ)2013 年 11 月号 P.67 より引用
大手食品卸売企業日本アクセスは、卸売事業(従来)、3PL事業(新)、製
造卸事業(新)を支えるために、2007年に新基幹システム「Captain」を導入
した。Captainの特色としては、①需要予測、②受発注、③商品供給、④品質
管理、⑤ロジスティクス、⑥流通加工、⑦実績管理機能などが持っている(表
4)。
日本玩具最大手ハピネットは、早い時期から物流と情報システムの高度化に
取り組んできた。同社の基幹情報システム「CAPS」によってメーカーと小売店
との情報共有を進めている。仕入先メーカーとの EDI の整備や、大手小売りチ
18
ェーンからの EOS 受注などを拡大し、取引先の仕様に合わせて受発注システム
を整備している。この情報システムを、取引先との販売情報の共有や、ANS(事
前出荷明細)の受け渡し、商品マスターの最適化などに活用してきた。2006
までに、小売店とのオンライン取引の比率は受注処理件ベースで約8割にまで
拡大していた。
表5
日本アクセス基幹システムCaptainの機能
機能
内容
需要予測機能
需給情報に基づき、最適な発注情報を知らせで、在庫の無駄を排除することができる
受発注機能
在庫商品だけではない、鮮度管理の厳しい商品も注文から発注までスピーディーに処
理できる
商品供給機能
必要な商品を必要な時に必要なところへ迅速的に届ける
品質管理機能
発注・入荷・納品まで鮮度・温度管理をリアルタイムで行う
ロジスティクス
取引先に最適な物流機能を提供し、共同配送などでコスト削減できる
機能
流通加工機能
流通の過程において付加価値を高める商品を供給する
実績管理機能
商流・物流情報をスピーディーに把握できる
出所:日本アクセスのオフィシャル・ウェブサイトより
医薬品卸東邦薬品は 1997 年から「ENIF」と呼ぶ小型の情報端末を介した顧
客支援サービスを開始している。2007 年まで日本全国で約 2 万台の利用実績
がある。ユーザーは ENIF の端末から 24 時間いつでも商品を発注できる。発注
情報は同社の基幹システムで処理され、最寄りの営業所および物流センターの
在庫に引き当てが行われる。これに並行して、物流センターから営業所への輸
送時間や営業所の配送スケジュールなどから自動的に輸送のリードタイムが
割り出される。これによってユーザーは、発注とほぼ同時に配送予定日を確認
することができる。
3.3.2
物流センター内作業システムとマテハン
情報システム以外に、各種のマテハン機器も物流センターシステムの大切な
構成要素である。マテハンは、調達、生産、販売、回収などの物流現場におけ
る物品のあらゆる取り扱い作業のことであり、ロジスティクスを支え、円滑に
機能させ、運営していくために不可欠なサブシステムである。
高いレベルのサービスを、いかにローコストで提供できるかがカギになる。
そのための工夫は、基本的に現場に手探りで高度化していくしかない。作業シ
ステムとマテハンを使うと、単位時間あたりの処理能力が上げられる同時に作
業精度も確保できる。そして、物流コスト削減は唯一な目的ではない。店頭起
点の物流ニーズを満たすことも重視されている。商品を安く持っていくだけで
はなく、店舗での作業負担の軽減や物流品質などが重視されるようになってい
る。例えば、バラピッキングを要する単品単位物流を正確に低コストで処理す
るためには、専門的な技術を必要とする。卸売各社は庫内作業マテハンの開発
方面にも工夫を凝らす。
パルタックは長期的に通用する機能をセンターに持たせるために、マテハン
19
機器の精度を 0.1 ミリのレベルに改善することによって、低コストの仕組みを
構築してきた。そして、同社は独自開発してきたマテハン機器には、パルタッ
クのユニークなものが多いし、特許を取得した機器も少なくない。例えば、あ
らゆるサイズの段ボールの上部を自動カッティングする「オートカートンカッ
ター」、店別仕分けソーターを不要にした「ケース店別仕分けシステム」、バラ
ピッキング棚へのケース補充を効率化した「オートリフター」などがいずれも
同社のオリジナル機器で特許も取得済だ(表 5)。
表6
パルタックの特許取得機器・システム一覧
(2014 年 11 月末現在)
名称
特許取得日
番号
ピッキング棚の物品補充装置(オートリフター)
1998/12/25
2867021
カートン開封装置(オートカートンカッター)
1999/7/9
2951601
開梱用カッター
2005/1/28
3640894
ピッキングリフト用篭車
2005/9/2
3715031
開梱用カッター
2007/7/27
3990918
開梱用カッター(米国特許)SS カッター<新>
2005/9/6
US6,938,343(B2)
運搬台車(サンキャリーPAL)
2010/4/16
4492793
搬送台車、台盤及び搬送台車セット(サンキャリーPAL2)
2010/6/11
4528163
運搬用台車(店舗納品カート)
2010/7/2
4540050
仕分け装置(オリコン仕分けロボット)
2010/11/15
4620431
流動棚および組み付け部材
2012/1/20
4906436
物品仕分けシステム(RF-MAST・タネマキ)
2012/4/20
4975346
パレット供給装置
2014/10/24
5635062
SS カッター<旧>
SS カッター<新>
出所:パルタックのオフィシャルウィブサイトより
加藤産業は、現場のオペレーションでは柔軟性を重視して、大規模なマテハ
ン活用とは一線を画してきた。日本全国の物流拠点のうち、2013 年 9 月まで
パレット自動倉庫を導入しているのは三カ所だけ。ケース自動倉庫を導入しな
いが、その代わり無線 LAN を介して動くハンディ端末をフル活用している。商
品の入出庫や在庫管理、棚卸、さらに現場の作業管理に至までハンディ端末で
処理している。元の作業管理システム(どの作業者が、どういった業務を、ど
れだけやったのか時系列で把握できる。)の上に、
「予実管理」を強化している。
「庫内運営コストの見える化」と称して、業務ごとの物量や作業時間、生産性、
必要人数などの「予定」をあらかじめシステムに入力し、これをハンディ端末
に蓄積される「実績」と比較することで業務改善に役立てている。
トーハンは返品の減少と売り上げの拡大を図るために、2009 年に「MVP サプ
ライ」と名付けた商品供給の新しい仕組みを立ち上げた。トーハンの開発した
アプリケーションを使い、桶川 SCM センターで取得した送品・返品データと書
店の POS データから書店別・銘柄別の在庫数を算出し、書店ごとに立地・店舗
面積・地域での競合関係などを加味して需要予測を立てる。これらの数値をも
とに、個々の書店にとって最適な仕入れ数を提案して供給する。
国分は庫内設備だけで 15 億円を投資した。高性能マテハン・情報システム
を稼働して、現場作業の処理能力を向上された。同社として初めてケース自動
20
倉庫(ダイフク製)を採用したほか、順立て出荷などのために「システマスト
リーマー(SAS)」(立体高速ピッキング仕分け機=イトーキ製)も導入した。
システマストリーマー(SAS)の導入によって、量販店などから要望が高まっ
ているカテゴリー仕分けなどに対応している。また、国分の独自で開発した入
荷検品ピッキング台車とピッキング台車の場合は、無線ハンディ端末による作
業者への指示だけでなく、ハンディ端末とラベルプリンターのデータ交換にも
無線を利用して、同じ機器を多くの用途に流用できる。また、ピッキング台車
の自重は約 45 キロと、従来型に比べると軽量化が図られた。
2003 年に日本で施行された改正薬事法で、動物に由来する原料や材料を用
いた「生物由来製品」については、製造ロット番号や使用期限、販売先などの
履歴管理を行うことが卸に義務付けられている。これに対応するために、スズ
ケンは「新庫内物流システム」を構築している。メーカーから商品が入荷した
時に、製造ロット、使用期限をチェックして、データが不備なものについては
同社が入力を行う。このシステムによって、商品が流通した後も全商品につい
てトレーサビリティー(履歴追跡)の確保が可能になる。
同業界の東邦薬品も薬品製造ロット・期限の一貫管理を行って、トレーサビ
リティーに実現してきた。また「光る IC タグ」を活用することでミス防止も
可能になる。
大手玩具卸サンリオは顧客や店頭への物流サービスレベルの向上を重視し
ている。庫内自動化と作業プロセスの高度化によって、発注リードタイムの短
縮や、物流精度の向上を図る。納品精度を高めることによって、納品先の店頭
での検品レスを実現することを狙っている。そのために、受発注の EDI 化を行
っている。従来出庫業務にだけ導入していたスキャン検品の仕組みを、入荷や
倉庫内での移動処理にまで全面的に導入した。その結果、ミス率一万分の一以
下の精度が出せるようになった。店頭での検品レスを実現された。また、同社
は使用済み段ボールの処理にも工夫を凝らした。多い時には6トンぐらい発生
する使用済み段ボールを、従来にはすべて人力で壊し、積み付けてから古紙業
者に渡してきた。これを新センターでは、物流センター内に古紙業者の破材処
理機を設けてもらい、作業員の手を経ずに処理できる仕組みにしてある。
3.3.3
商流とのリンケージ
卸売企業は物流機能を武器に商流を確保する。その点は物流企業との一番異
なっているところである。
経営体ごとの物流管理を志向していた国分が、グループ各社の在庫の共有化
などを明確に意識している。これは“商物分離”へとつながる大きな変化でも
ある。国分は 2002 年から物流拠点の統合を推進している。しかし、物流拠点
の統合を進めていくなかで新たな問題も出てきた。従来の“商物一体”の体制
であれば、物流拠点の運営や管理もそれぞれに行っていれば良かった。ところ
が、これを物流だけ抜き出して共同化するとなると、一体物流センターの運営
は誰が担うかという課題に直面する。そこで、国分は 2005 年 1 月に物流統括
部の中から、首都圏エリアの担当だけを切り出して「首都圏物流部」を発足、
共同化した物流拠点の運営・管理を、ここで行う体制を整えた。首都圏を先行
させるかたちでグループ会社の“商物分離”を進めて、センター管理を国分本
21
体が肩代わりする枠組みを作った。
加藤産業は業界に激しい競争を直面して、2000 年以降から商流と物流を明
確に区分してビジネスを展開してきた。商流では提案力を磨き、物流では機能
を高度化することで、それぞれに事業を拡大している。卸として商流を熟知し
ていることの優位性を、センター運営においても最大限に発揮する。営業に絡
む小売チェーンとの情報共有や、メーカーと直接交渉をできる立場にあること、
さらには欠品発生時の迅速な商品の手配など、卸ならではの情報活用といった
物流専業者には真似のできない領域で差別化していく。
パルタックは物流以外のマーチャンダイジングのサービスレベルを拡充す
ることで商流を確保している。
菱食はまず物流だけを一本化した。物流の集約を先行させて、小売事業者の
納品時の負担を実際に軽減してみせる。その効果を認めてもらうことで商流を
集約していく。
医薬品卸大手スズケンは日本全国 9 ヵ所に物流センターを整備する構想を
進めている。この 9 拠点に従来の物流機能を集約し、商物分離を実施する。
日本医療分野の医薬分業化によって、医薬品卸にとって販売先の比重が医療
機関から調剤薬局へシフトしている。調剤薬局との取引では、医療機関と比べ
て受注の単位が細かくなり、品切れを起こさずに商品を短時間で納品すること
へのニーズがより強くなる。調剤薬局では医師の発行する処方箋の通りに薬を
処方しなければならない。在庫がないからといって、同じ効能を持った別の薬
を処方することは認められていない。従って、どんな処方にも対応できるよう
に品揃えをしておく必要がある。また、もっとも薬局には充分な在庫スペース
がないことが多く、在庫を最小限に抑えて必要な分だけ発注する傾向が強い。
結果として卸には、品揃えへ強化や、在庫の肩代わりといった機能が求められ
るようになった。そこで、スズケンは物流ネットワークの再構築を決めた。ま
ず、大規模(月間取扱金額は 200 億円規模)の物流センターを日本主要都市を
中心に配置して、フルラインで商品を品揃えする。整備中の各物流センターに
はその全アイテムを在庫して、顧客からの注文に応じられるようにする。一方
で、支店の在庫はセンターに集約し、支店では緊急対応の必要なものや、特殊
な顧客向けの商品など最小限の在庫だけを持つように変える。センターでピッ
キングした商品は支店経由で顧客へ配送するが、この際の配送業務は MS(マ
ーケティング・スペシャリスト)から切り離し、センター内作業などとともに
物流子会社へと移管する。
同じ課題に対応して東邦薬品では、物流機能の強化を積極的に進めてきた。
合併で商圏が拡大した地域に相次ぎ物流拠点を新設したほか、既存の物流施設
の増設などで、2014 年まで東京、北海道、栃木県、埼玉県、岡山県、熊本県、
兵庫県に医療品の物流センターを整備した。
3.3.4
店舗への配送サービス
2005 年に、ハピネットは紀伊国屋書店の DVD 専門の通販サイト「フォレス
トプラス」からの業務委託を受けて、商品調達とエンドユーザーへの配送にい
たる一貫物流を担当している。
近畿エリアの二府四県(京都、大阪、滋賀県、兵庫県、奈良県、和歌山県)
22
を主に配送エリアとするパルタックの RDC 近畿では、約 1200 企業、約 6000
店舗に対して、カテゴリー別に商品を提供している。取扱高は年間約 400 億円。
特定小売り向けの専用センター分の商品も含まれているものの、基本的には細
かい注文に対応した物流を処理している点に、卸の物流拠点ならではの特徴が
見られる。RDC 近畿で取扱商品の数は約 1,6000SKU(ストック・キーピング・ユ
ニット:在庫管理のための最小単位)。一般にコンビニエンスストアの店頭に
陳列されているアイテム数が約 3000、特定小売りチェーン向けの日雑貨専用
センターのアイテム数が 5000 程度なのと比較すると RDC 近畿のアイテム数は
極めて多い。こんな莫大なアイテムを、数多くの顧客に供給しているにも関わ
らず、RDC 近畿の納品精度は 99.999%を維持している。そこで、取引先の店舗
での検品作業の負担を削減された。
トーハンは仕分け際に書籍のバーコードまたは ISBN コードを読んで書店別
の送品データを取得する。これをもとに梱包単位で商品明細を作成して書店へ
送り、梱包ラベルのバーコードに明細情報を紐付けておく。機械化によって送
品ミスはほとんどなくなり、書店の検品レスが可能になった。リーダーライタ
ーなどが整った書店ならば、梱包ラベルのバーコードを活用して入荷・検品・
在庫更新まで一度に処理することもできる。それで、書店での物流に関する作
業は簡単化になった。トーハンは返品された書籍を処理する時に、ソーターで
商品のコードを読んで入帳データを取得し出版社別に仕分ける。書店は返品伝
票を作成する必要がなくなり、出版社も返品を受け入れる際の検品を省略でき
るようになった。また、返品された商品を改装して売れる店へタイムリーに送
品するために、トーハンは桶川 SCM センター内に出版社が共同で改装・保管・
再出荷する基地を設けて業務を効率化し、返品された商品を直ちに改装して再
出荷できるようにした。その以外に、トーハンは注文品の配送にプラスチック
製折りたたみコンテナの導入をも進めている。従来の段ボールによる配送は、
書店側で使用済み段ボールの処理負担が発生し、輸送中の荷傷みも起こりやす
い。リターナブル容器に変えることでこれを改善する。返品にも利用できるた
め書店は返品用段ボールを購入しなくて済む。またオリコンの回収を確保する
ために IC タグ(UHF 帯)によるオリコンの供給・回収管理システムを活用し
て、注文品を IC タグ付きオリコン書店へ納品し、書店から返品をオリコンで
回収する。それで、オリコン回収を確保できるだけではなく、作業効率も向上
された。
食品卸ヤマエ久野はバラピッキングを効率化するため秤付きのピッキング
カートを導入している。この新たなカートの導入によって、生産性を高めなが
ら、ピッキングミスはほぼゼロにできた。オリコン三個のピッキングを同時に
こなしながら、スキャンした商品をオリコンに投入するたびに重量を計ってミ
スを防ぐ。また、同社は青果をケース仕分けする工程に、音声システムを導入
している。従来は紙のリストに基づいて作業をしており、青果にはバーコード
が添付されていないため作業者の目視に依存せざるを得なかった。作業スピー
ドは高まらず、一ヵ月に2、3件の頻度でミスが発生していた。ミスは店舗に
も作業負担を掛けていた。その音声システムの導入によって、作業ミスがゼロ
になった。音声で指示されるデータ自体は商品のロケーションや対象商品の内
容、個数などハンディ端末と同様だが、作業者とコンピュータが常に音声で確
認し合いながら作業を進めることで正確性が格段に高まった。作業中にピッキ
23
ングリストや携帯端末に目線を動かすことがなく、両手も自由に使えることか
ら、紙のリストを使う方法より作業スピードも速くなった。全くの初心者を一
週間程度で平均レベルの作業者と同等のレベルにできると言う魅力もある。
スズケンは新たな物流ネットワークを整備する時に顧客へ当日配送できる
条件で各拠点を設置している。同社は 2006 年 10 月に稼働した「戸田物流セン
ター」には都内の 19 支店の在庫を集約した。庫内にはデジタルピッキングシ
ステムやバーコードを使った入出荷検品システムなどを導入し、作業の効率化
を図っている。入荷と棚入れ、出荷検品時の 3 度に渡るチェックで、オペレー
ションの精度も高めている。午前 11 時までに貰ったオーダーに対しては、支
店経由で当日配送する。医療機関向けにはセンターからの直送も実施している。
顧客からの緊急オーダーに備えて、支店には一部の商品在庫をまだ置いている。
しかし、センターへの集約によって、発注頻度が著しく低い不動在庫が減るな
どの効果は徐々に出てきた。
東邦薬品の物流センターには出荷頻度の極めて低い商品も含める全アイテ
ムを在庫している。在庫アイテム数は 2 万点ぐらいに達した。各物流センター
から、それぞれの地域の営業所を経由して、医療機関や薬局などのユーザーに
医薬品を供給している。物流センターでは、ユーザーから発注のあった商品を
翌日午前中に営業所へ届ける。首都圏などでは一日二便体制をとり、午前中の
注文に対しては当日配送も実施している。2万アイテムのうち緊急性の高い
2000〜3000 アイテムについては、営業所にも在庫を持って対応している。ま
た一部のユーザーには物流センターからの直送も行っている。
3.3.5
付帯サービス
基本的な物流サービス以外に、卸業企業は物流に関連する付け帯サービスも
提供している。
例えば、トーハンは客注の充足率を向上するために、100%子会社の「ブッ
クライナー」が運営する客注サービス「本の特急便」を立ち上げた。書店では
ほとんど在庫を持たない動きの鈍い商品を扱う。書店の見込み発注で売れ残れ
ば返品される「注文品」と違い、「客注品」は売り先の決まった確実に売れる
商品だ。客注の充足率向上は売り上げの拡大に直結する。そこでブックライナ
ーがこうした商品の在庫を用意し、
「特急便」加盟店への客注に対応している。
国分は専用センターの運営を刷新するために、1994 年から「3OD」(One Order
One Delivery)というコンセプトを掲げて、専用センターを運用してきた。こ
れはドライグロサリーや菓子、酒類の一回のオーダー分を一回の配送で賄うと
いうものである。日用雑貨など国分が直接手掛けていない商品については
TC(通過型)で処理する。
菱食はリテールサポートを実践するために約 10 年を費やして日本全国で
「RDC-FDC ネットワーク」と称する物流拠点ネットワークを構築した。これは、
商品を一個単位でピースピッキングする作業と、箱単位でケースピッキングす
る作業を二種類の施設で分散処理することによって、中間流通の効率化を図る
大がかりな物流網である。ピース単位のピッキングを集中的に処理する後方支
援型の物流拠点「RDC」(Regional Distribution Center)を全国 10 ヵ所ぐらい
に設置し、各エリア内にはケース単位の商品をピッキングする複数の「FDC」
24
(Front Distribution Center)を置く。後方の RDC から供給される「小分け商
品」と、FDC で用意する「ケース商品」を積み合わせて、FDC から一緒に得意
先へと納品する。このような全国ネットワークを完成することによって菱食は
“物流に強い先進卸”という評価を確立した。例として、同社は 2004 年 5 月
に「横須賀フルライン物流センター」を稼働した。このセンターでは、菱食グ
ループの 3 社が看板を掲げている。加工食品を扱う菱食、菓子のリョーかジャ
パン、酒のリョーショクリカーである。グループ会社を集結して、商流上も常
温食品をフルラインで扱えるようにした。さらに、同センターの稼働にあわせ
て、菱食はこのエリアの RDC の機能もフルライン化している。これによって
横須賀センターがカバーする神奈川県全域と静岡県東部については、常温帯の
食品を一括で扱える体制が整った。
東邦薬品は普通の発注業務以外に、薬局の負担を緩和する狙いで、情報シス
テム ENIF を利用して、
「分割販売」というサービスを立ち上げた。通常の取引
かパッケージ単位であるのに対し、分割販売では包装を解いた状態のバラ注文
に応じる。錠剤はワンシートからの注文が可能だ。また、分割販売事業の開始
に合わせて東邦薬品では、小分け作業を行うための専用拠点をも整備した。東
京・大宮・東大阪・岡山の 4 ヵ所に専用拠点を配置し、全国をカバーする体制
を整えた。東京以外の拠点はすべて、既存の物流センターに併設する形式をと
り、配送も営業所を経由する通常のルートを利用することで効率化している。
4.発見事実に基づく考察
4.1 卸運営の小売企業向けの物流センターに関する考察
先行研究を通じて、卸売企業のリテールサポートは主に①情報機能(商品情
報の提供、市場情報の提供、商圏情報の提供など);②マーチャンダイジング
機能(品揃え・棚割り提案、特売を中心したプロモーションの提案、エンド計
画の作成、POP やチラシの作成、商品補充業務、PB など自主開発商品の企画・
提案、店舗診断・競合分析等の経営指導など);③ロジスティクス機能(需要
予測・販売予測、自社専用センターの運営、リサイクルなどの回収系システム
の構築など)3 つ方面の機能を提供している。各事例を整理して見ると、卸売
企業は物流センターをプラットフォームとして以上の 3 つの機能を小売業者
に提供している。
4.1.1 物流ネットワークの完備と統合
まず、研究事例から見ると、多数の卸売企業は全国的な物流拠点ネットワー
クを持っていることがわかる。そこで、全国的な物流拠点ネットワークの完備
はロジスティクス戦略の基本と考える。
例えば、大手食品卸の三菱食品は生き残り条件を「ナショナル化」と「フル
ライン化」の実現に定めてきた。業務提携した米国の大手ホールセラー、フレ
ミングから学んだリテールサポートを実践するため、まず日本全国で「RDC-FDC
ネットワーク」と称する物流拠点ネットワークを構築した。大手医薬品卸のス
25
ズケンは当日配送を実現するために、中規模拠点ネットワークの日本全国整備
に乗り出した。パルタックは、全国規模で高い水準のマーチャンダイジング、
ロジスティクスを提供できるよう、営業・RDC のネットワークづくりを推進し
ている。
表7
各卸売企業の拠点ネットワークに関する状況
企業
取扱商品
分布エリア
拠点総数
センター類型
全国的
ネット
ワーク
有無
東邦薬品
スズケン
医薬品な
東京、北海道、栃木県、埼玉
ど
県、岡山県、熊本県、兵庫県
医薬品な
宮城県、千葉県、神奈川県、
ど
兵庫県、埼玉県、愛知県、北
8
汎用 TBC
有
7
汎用型
有
229
専用型:62
有
海道、
国分
食品
関東、甲信越、静岡、中部、
汎用型:167
中国、北海道、東北、近畿・
四国、九州
菱食
食品
関東、中部、北海道、東北、
430
関西、中四国、九州
RDC(Regional
有
Distribution Center)
FDC(Front
Distribution Center)
日本アク
食品
セス
関東、東北、中部、中国・四
335
幹線輸送センター
国、近畿、九州、北海道(関
受託型 共同配 送セン
連会社)
ター
有
汎用型センター
加藤産業
パルタッ
食品
日用雑貨
ク
北海道、東北、関東、中部、
100 ぐ ら
専用型
近畿、中国、四国、九州
い
汎用型
有
北海道、東北、関東、東京、
15
RDC
有
横浜、中部、近畿、中四国、
九州
ハピネッ
玩具
東京、大阪
3
汎用型
無
サンリオ
玩具
東京町田市
1
汎用型
無
トーハン
出版物な
埼玉県(上尾市、桶川市、加
3
汎用型
構築中
ど
須市)
ト
(注:「全国的ネットワーク有無」の判断基準は企業の業務カバーしている範囲である)
出所:各社の事例を踏まえて筆者作成
また、卸売企業は拠点を構築すると同時に、拠点の統合をも重視している。
拠点の構築と統合に関して、各社に共通する特徴は2つがある。
1つは「物流再編成」であり、もう1つは「統廃合」である。売上高が伸び
悩み低下する中で、物流コストの削減をテーマにまず組織を再編成し、ムダを
削減して統廃合を進めようといった取り組みが多く見られる。「統廃合」は在
26
庫低減などのコスト削減効果が高いため、大手企業を中心に自社の物流ネット
ワークを再編成したり、全国の物流拠点を統廃合する動きが見られる。
例えば、三菱食品の全身である菱食は相鉄ローゼンの常温商品の物流運営委
託を受ける時に、もともと一般食品で 3 ヵ所、酒とお菓子がそれぞれ 1 ヵ所ず
つ、日用雑貨 2 ヵ所の計 7 ヵ所に分散されていた常温商品の一括物流センター
を「愛川物流センター」に一本化する。運営の集約化で店舗業務の簡素化が実
現した。荷受け業務を簡素化することに加え、予めセンター側で店頭の棚レイ
アウト順に商品を仕分けしておくことで、商品陳列作業の迅速化も実現した。
パルタックは、全国規模で高い水準のマーチャンダイジング、ロジスティク
スを提供できるよう、営業・RDC のネットワークづくりを推進している。同社
は 2002 年から日本全国で分散している数十ヵ所の物流拠点を、RDC(リージョ
ナル・ディストリビューション・センター)と呼ぶ汎用型の大型物流センター
に集約する作業を進めている。1999 年 3 月に大阪で新設した RDC 近畿を皮切
りに、2014 年現在までに同社が持つ日本全国の RDC は総計 15 ヵ所。それぞれ
が RDC 北海道、RDC 中部、RDC 北陸、 RDC 群馬、RDC 新潟、RDC 東北、 RDC
宮城、RDC 東京、 RDC 横浜、 RDC 近畿、RDC 堺、 RDC 中国、 RDC 四国、 RDC
九州、 RDC 沖縄の 15 ヵ所である。
国分は物流拠点を再編するために、八潮センターを設置した。既存の 6 拠点
(国分 2 ヵ所、廣屋国分 3 ヵ所、国分菓子販売 1 ヵ所)を統合して、「首都圏
物流再編プロジェクト」を行った。
4.1.2 高機能情報システムとマテハンの活用
小売業の情報化が進むに合わせて、それに対応できる卸売業の情報化が不可
欠になっている。企業活動すべてのオペレーションをコストダウンし、取引先
へのサービス向上を行うために、情報化の果たす役割は非常に大きいなもので
ある。各社の事例を整理すると、自社の特別な基幹情報システムは重要な競争
要素である。それらの情報システムによって、小売企業に情報化支援を実現し
ていきた。
表8
各企業の基幹システム
企業
ハピネット
基幹情報システム
CAPS
主な機能
(Change and Progress System)
メーカーと小売店との情報共有、需要予
測機能、受発注精度向上、オンライン取
引でスピード向上、販売機会ロス防止
加藤産業
PARS (Professional Advanced
業務標準化、情報共有化、スピーディー、
Replenishment System)
効率化、需要予測の精度向上、鮮度管理
強化、在庫陳腐化防止
国分
菱食
物流汎用システム「WING」、量販店対応
変化への柔軟対応、高速処理、自動判断
物流システム
発注機能、個別対応
NEW-TOMAS ( NEW-Total
Management
System)
営 業 活 動 支 援 の 強 化 、 CS(customer
satisfaction)志向向上、コスト削減、
365 日 24 時間対応、経営情報の充実
日本アクセス
Captain(Capable Program for Tactical
27
需要予測機能、受発注機能、流通加工機
パルタック
トーハン
Access Information Network「ネットワ
能、商品供給機能、品質管理機能、ロジ
ーク型
スティクス機能、実績管理機能
機能強化情報システム」)
SAMS(ネットワーク型
EDI 対応卸売総
物流精度向上、スピード向上、処理能力
合システム)
強化
書店向け情報 SA システム「TONETS V」
書店側:商品情報を提供、発注・抜取提
案、課題発見、解決策提示
出版社向けのネットワーク「TONETS i」
出版社側:増売・重点銘柄の提案、需要
予測支援、店頭実績・在庫情報の共有
出所:各社の事例を踏まえて筆者作成
また、各社は独自開発ノウハウを蓄積することも重視している。模倣されな
い経営資源を持っている企業は競争力が高い。例えば、菱食にとって物流ネッ
トワークのフルライン化は、競合他社との差別化を決定的なものにするための
有力な武器になる。ここで競争力のある仕組みを実現できれば、物流の優位性
を活かして商流のフルライン化を進められる可能性も高まる。パルタックは、
生産から消費にいたる流通プロセスを徹底的に検証する。同社独自開発したマ
テハンを通じて、流通過程と店舗作業のムダを排除し、小売業者の生産性を高
める独自の「トータル・ロジスティクス・システム」を提供している。
表9
各企業独自開発項目に関する状況
企業
分野
名称
特長
国分
庫内マテハン
入荷検品台車
携帯便利、軽量化、多用
ピッキング台車
途、経済性
一括物流システム「ILIS」(Integrated
一括物流センターの先
Logistics Information System)
駆的な存在、情報処理高
伊藤忠食品
情報システム
度化、制度化、緊急事態
に柔軟対応、コスト最適
化
ハピネット
情報システム
値札自動発行システム
値札発行の時間短縮、ス
ベースの有効活用、人員
の有効活用
菱食
サービス
SDC(Specialized Distribution Center )
「商物分離」を促進
特定企業向けの物流センター
加藤産業
倉庫管理シス
KALS(Kato Advanced Logistics System ) セ ン タ ー 業 務 の 合 理
テム
化・効率化、リードタイ
ムの短縮、店舗オペレー
ションの合理化、納品率
の向上、商品鮮度の向上
加藤産業
庫内マテハン
ハイパーピッキングカート(特許申請
納品精度の向上
済)
パルタック
庫内マテハン
オートリフター、オートカートンカッタ
(特許取得済) ー、開梱用カッター、ピッキングリフト
28
効率向上、精度向上など
で高精度物流を支える
用篭車、運搬台車、搬送台車、台盤及び
搬送台車セット、運搬用台車(店舗納品
カート)、オリコン仕分けロボット、流
動棚および組み付け部材、物品仕分けシ
ステム、パレット供給装置
菱食
拠点ネットワ
フルライン RDC(Regional Distribution
小売業者の物流ニーズ
ーク
Center ) — FDC(Front
に柔軟的な対応できる
Distribution
Center)ネットワーク
国分
サービス
3OD(One Order One Delivery)
エリア単位で複数企業
の物流を担える仕組み、
小規模チェーンに対し
てはドミナント化して
運ぶ物流モデル
出所:各社の事例を踏まえて筆者作成
さらに、商品類型による物流特性も異なっている。例えば、日用雑貨はサイ
ズがそれぞれに違いし、アイテムも膨大、また回転率も高いないので、一般的
にバラピッキングする後にケースで出荷することが多い。
表 10
各類型商品の物流特性
物
流
特
サイズ
アイテム
単価
回転率
ピッキング単位
出入荷単位
日用雑貨
細かい
膨大
安い
低い
バラピッキング
ケース
常温食品
均一
膨大
安い
高い
バラピッキング
パレット(大量
商
品
類
型
性
品)
ケース
(少量品)
低温食品
医薬品
均一
細かい
多い
多い
安い
高い
高い
低い
トータルピッキン
カゴ車(保冷た
グ
め)
バラピッキング
パレット
ロット
出版物
均一
膨大
安い
低い
バラピッキング
パレット
各社の事例を踏まえて筆者作成
庫内ピッキング方式の策定も商品によって異なる。物流センター内のピッキ
ングのやり方は、大きく「摘み取り方式」と「種まき方式」に分けられる。摘
み取り方式は、オーダー別に商品を一品ごとに集品する方法である。種まき方
式は商品ごとにオーダーの総数をいったん集め、オーダー別に商品を配分する
方法である。どちらの方法を選択するかは、商品のアイテム数とオーダーの配
送先数による。一般的に、アイテム数より配送先数が多い場合は種まき方式で
行う、逆に、アイテム数が多い時に摘み取り方式でピッキングする。
29
図9
種まき方式と摘み取り方式
出所:各事例に踏まえ筆者作成
ピッキング作業は品質と効率性が求められる業務である。そこで、それに関
連する機器の選定も重要なステップである(図 10)。
図 10
ピッキング機器の種類と選定基準
30
出所:臼井(2011)P225 を参考に作成
一般的に、摘み取り方式では「無線ハンディピッキング」「デジタルピッキ
ング」「カートピッキング」を採用している。種まき方式では、代表的なシス
テムは「ピースソーター」「デジタルアソート」「カート種まき」などがある。
ピッキングシステムは、ピッキングするアイテム数と出荷頻度で選定する。例
えば、ハンディターミナルは片手作業のため、一度に少量の商品の集品時に使
える。デジタルピッキングは出荷頻度が少ない場合、生産性が低いのであまり
使われない。また、ピッキング対象商品によっては、人が移動するカートピッ
キングを使うケースが多い。ピースソーターの仕分け能力が高いので、ピッキ
ング総数が多い場合によく使われる。
4.2 補論:3PL 企業運営の小売企業向けの物流センターの実態
筆者は卸運営の小売企業向けの物流センターの実態を考察していく一方で、
3PL 企業——丸和運輸機関と日本通運の小売企業向けの物流センターの実態を
も考察した。
丸和運輸機関は神奈川 MK 共同配送センターで大手ドラッグストアと共にロ
ーコスト・オペレーションを実現してきた。同社のドラック物流のコンセプト
は“店舗効率向上”であり、物流活動を通じて店舗が販売に専念できる仕組み
を構築している。同社は業界に先駆けて VMI(ベンダー・マネージド・インベ
ントリィ)方式を取り入れ、店舗在庫ゼロを実現した。この VMI の仕組みを通
じて、店舗は在庫を抱えることなく発注後、翌日(一部の店舗は当日)には商
品を店舗に並べることが可能となる。また、同社商品の検品をすべて物流セン
ターにて行うため、店舗では一切検品を行わない。そこで、店舗内における品
出しの効率を向上させることが可能である。納品から品出しまでの時間を短縮
31
させることで販売機会ロスの低減効果もある。マテハンの方面に、同社は 2010
年に TC2号棟に新たに「TCⅡ型」システムを導入した。このシステムには、
一次仕分け用ソータとデジタルアソートシステムの組み合わせで効率的なカ
テゴリー別納品を実現した。また「五色デジタルアソートシステム」により作
業効率が大幅にアップされた。結果として、従来の店舗型納品をカテゴリー別
納品に変えて、店舗では開梱後すぐにカテゴリー別の棚入れが可能になる。さ
らにはセンターから届く荷物が減少し、店舗オペレーションが大幅に軽減され
ている。
大手物流業者——日本通運の物流センターでは、基本的なサービスとニーズに
合わせた付加価値のあるサービスを組み合わせ、顧客に高品質物流サービスを
提供している(表 11)。例えば、入庫作業には、外装検品、数量検品、ロット
検品、鮮度検品(製造日・賞味期限)、カテゴリー別仕分け、パレット積み付
けなどの基本的なサービス以外に、デバンニング、品質検査(各種部品など)、
外装不良再生作業、返品受入(良品判定)
、仕入計上、予定データ照合などの
付加価値のあるサービスをも提供している。業種・業態など様々なニーズに合
わせ、ロジスティクスセンターを核としたトータルなロジスティクスサービス
を展開している。顧客に最大限な満足な物流サービスを目指す。
表 11
日本通運の物流センターで提供しているサービス一覧
流れ
基本サービス
付加価値サービス
入庫
外装検品、数量検品、ロット
デバンニング、品質検査(各種部品など)、外装
検品、鮮度検品(製造日・賞
不良再生作業、返品受入(良品判定)
、仕入計上、
味期限)、カテゴリー別仕分
予定データ照合など
け、パレット積み付けなど
保管
品番管理、ロット管理、数量
保 税 、 業 態 管 理 、 VMI ( Vender
Managed
管理、入庫日管理、納入元別
Inventory)、温湿度管理(冷蔵・冷凍)
、ダブル
管理、入数管理、ロケーショ
トランザクション、各種マテハンなど
ン管理、在庫報告など
出庫・流通
ケース・ピースピッキング、
セット組作業(各種説明書など)
、梱包データ作
加工
出荷検品、納品書発行、送り
成(SCM ラベル)、専用伝票発行、バンニング、
状発行など
詰め合わせ作業(贈答品・福袋など)
、シリアル
管理、組立作業、値札・タグの発行取付、ラベ
ル貼付(保証期間など)
、検針検査、輸出梱包作
業、キッティング作業、デジタルピッキング、
ソーター(ケース・ピース)など
輸配送(入
モード別輸送手配・トレース
トラック輸送(路線・貨切)、共同配送、ルート
出庫)
管理・納品書回収など
配送、ミルクラン、鉄道輸送、海上輸送、航空
輸送、JIT 輸送、ドレージ輸送など
出所:同社の現地調査とオフィシャル・ウェブサイトを参考に筆者作成
5.結論
本研究の事例研究から、卸売企業のリテールサポーティング機能が物流セン
ターの設立と運営をプラットフォームとして行っていることが確認できた。
32
卸売企業の物流センターは 3PL プロバイダーなどの物流企業のそれと比較
にも、規模や能力などの面で遜色がないレベルになっている。卸売企業のリテ
ールサポーティングを支える物流センターはどのような特点があり、これらの
特点がどのように卸売企業の存続基盤の確立と競争力の維持に寄与している
のか。事例研究からの発見を踏まえてまとめてみる。
1、物流拠点ネットワーク整備と運営による規模の経済性
三菱食品、国分などの食品系大手卸とパルタックなどの日雑貨大手卸は、い
ずれも不特定多数のチェーンストアを納品先とする汎用センターを基本とし
ている。このことは 3PL 事業者の運営する特定のチェーンストア向けの専用セ
ンターと明らかに異なる。卸売企業は全国レベルの拠点ネットワークを持って
いることによって、利用が増えるほど一件当たりの固定費用負担が下がり、コ
ストパフォーマンスは向上できる。3PL 事業者のセンターは特定顧客向けが基
本になるため、規模の拡大が限定的で生産性の向上に制約がある。
ところが、低コストの汎用的サービスに満足しない顧客も存在する。そこで、
大手卸はインフラのプラットフォーム化を進めると同時に、チェーンストアー
の専用センターをも手掛ける。汎用センター内の一部を専用センターに転用す
るケースはこれにあたる。そもそも小売業者のニーズを的確に捉え、それに応
えるサービスを提供することは卸売企業の強みであるため、専用センターの運
営への潜在的対応能力をもっている。
荒井(1989)と土屋(1998)が指摘したように、卸売企業は小売業者との取
引における情報伝達の時間短縮を通じてリードタイムの圧縮を図り、各物流拠
点から一定のリードタイムの中で配送可能な空間範囲を拡大することである。
本研究の事例で示されているように、国分、三菱食品などの卸売企業は物流拠
点を集約・統合することで情報ネットワークが持つ空間的な効果が改めて確認
できた。
2、情報システムの整備と活用
卸売業者は物流センターで整備されている情報システムから入手した情報
を通じて、営業サイトを通じて小売企業に提供するとともに、店舗品揃え活性
化支援、販売促進支援などの営業支援も積極的に手掛ける。これらの営業支援
を実行する時には、物流センターは重要な装置として機能している。センター
の高機能物流システムがあるからこそ、上記した様々な小売支援、即ち、リテ
ールサポーティングを実現するわけである。同じ物流センターを運営する 3PL
事業者はこの点がなかなか模倣できない。
取引先小売店舗に提供するする情報の中に、卸売業者の独自の情報が含まれ
るという点も本研究で発見した。現在は消費者が商品と店舗を選ぶ時代である。
小売業は成長を図るためには、小売業の本来の役割を強化しなければならない。
小売業の基本的なの役割の 1 つは「品揃え」である。即ち、消費者の満足でき
る品揃えの維持が小売業経営の使命である。適正な品揃えを実現するために、
「欲しい商品を、欲しい人に、欲しい時に、欲しい数量だけ、欲しい価格で提
供する」ことがカギである。そこで、小売業が最も卸売業に求めているものは
33
「品揃えの充実」である。
本研究の事例から明らかになったように、卸売企業は小売業店舗に提供して
いる品揃え情報は、一般的に売れている商品の品揃え情報だけではなく、標的
顧客の違い、商圏、立地、競合などを含めて、個々の店舗を取り巻く状況等を
踏まえるものである。卸売企業は物流センターで整備された情報システムを通
じて収集した情報を分析することで、個々の小売店舗に最適な品揃え提案を行
う。さらに、こうした情報に基づいて、小売店舗に品揃え支援以外の販売促進、
商品企画、経営指導などの機能を提供する。例えば、EOS 化で店舗への棚割り
提案を行ったり、POS データを通じて売れ筋商品を中心とした売上最大化を検
討したりすることが挙げられる。
3、物流と商流のシナジ効果
商流においては、卸売企業はメーカーなどの取引先との帳合を統合すること
で、取引の分散による非効率が発生することを防ぎ、全体での利益の改善につ
ながるケースが見られる。一方、物流センターでの現場作業を通じて、物流活
動のスピードと精度を向上させ、それによって商流での商品所有権の移転や代
金決済などのスピードも向上できる。物流と商流のシナジ効果が実現するわけ
である。
一方、卸売企業は長年にわたって小売企業とメーカーの中間に位置し、両方の
情報やニーズを認識し、対応するためのノウハウを蓄積してきている。本研究
で取りあげた事例から明らかになったように、卸売企業の物流部門で働いてい
る社員は営業出身が多く、長年の営業経験により顧客のニーズを正確に把握し、
応えられる能力がある。小売の担当者と円滑にコミュニケーションを取れる。
指標を作る技術がある。またそれを使うノウハウがある。パートナーシップ
に基づいた継続的な取引もできる。
例えば、独立卸国分は地場の卸や中堅規模の小売業者と強固なパートナーシ
ップを築いている。300 年近い社歴を通じて培ってきた日本全国規模の商売の
ネットワークも真似できない強みである。また、事例企業トーハンは、書店と
出版社双方を繋ぐネットワークを構築し、情報を共有している。分析したデー
タを相互のニーズによって活用している。トーハンは書店側に商品情報を提供
しながら、「発注・抜取」、「課題発見」、「解決策提示」などのことをも行って
いる。一方、出版社に対して、トーハンは「増売・重点銘柄之提案」、
「需要予
測支援」などのサービスを提供している。このような顧客のニーズを正確に把
握し、応えられる能力はまさに卸売企業の強いところである。
卸売企業は中間流通事業者でありながら、消費者志向を強めつつある。消費
者への新しい価値の創造、提供を徹底的に実施することが重要となってきてい
る。そのためには、多様化し変化が著しい消費者の価値観、ライフスタイルの
変化等を徹底的に把握し、分析する手段と組織を整備することが必要である。
すなわち、卸売企業は消費者の価値観やライフスタイルの変化を専門的に把握
し、分析し、予測するための物流センター中のサブシステムが不可欠である。
高度な情報化社会を迎え、消費者の商品選択の幅が広がった。これにより多
品種少量化の流れが進み、卸売業の物流は、大量商品のユニット配送から多頻
34
度小口配送へと、その重点が移行しつつある。このように大きく変化している
流通環境の中で、卸売業は果たすべき役割も絶えず変化する。いま、
「必要な
商品を、必要な時間に、必要な量だけ、必要とする場所に適切な方法で提供す
る」消費志向の物流システムが求められている。こんな消費志向を追求してい
る小売業者は卸に最も期待しているのはロジスティクスであり、それはリテー
ルサポートの中核と言えよう。また、卸売業者は物流センターをプラットフォ
ームとしてロジスティクス機能を実践している。そこで、今後卸売業者の物流
革新の焦点は物流センターでの革新と考える。物流センターは卸売企業がリテ
ールサポート機能を実現するための基盤だと言える。
謝辞
本論文執筆にあたり、多くの方々のご指導、ご支援をいただきました。この
場を借りてお礼申し上げます。
はじめに、指導教員である李瑞雪教授には、一年間に渡り熱心にご指導をい
ただきましたことを、深く感謝申し上げます。毎回のゼミでは、研究に挑む姿
勢、研究の進め方、研究に対する方向性を示していただきました。事例調査実
施時、論文執筆の際にも大変お世話になりました。研究に対する理解が至らな
い私に対して、時に厳しく、時に暖かい言葉をかけていただきながら、研究が
止まらないようにご指導いただく、本当にありがとうございました。
また、同級の皆様にも感謝いたします。様々な考え方を持った皆様の意見、
努力する姿に刺激をうけながら、二年間を過ごすことができました。本当にあ
りがとうございました。
最後に、ずっと留学生活を支えてくれた家族に心から感謝致します。
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