海洋系高校・商船系高専による富山湾の海洋観測と海洋

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海洋系高校・商船系高専による富山湾の海洋観測と海洋
第132回講演会(2015年 5月28日, 5月29日) 日本航海学会講演予稿集 3巻1号 2015年4月30日
海洋系高校・商船系高専による富山湾の海洋観測と海洋教育
○正会員 千葉 元(富山高専商船学科)
正会員 澤田和之(富山県立滑川高等学校海洋科)
正会員 橋本心太郎(富山高専「若潮丸」
) 非会員 古山彰一(富山高専専攻科)
Abstract
富山湾沿岸部にある海洋系高校・商船系高専においては、それぞれに実習船艇を活用した海洋観測と海洋
教育を行っている。富山県立滑川高等学校では、海洋科の学生による「海洋クラブ」を設置して、各種の海
洋実習を実施している。この一環として、実習船「かづみの」による沿岸部の CTD 観測を実施している。富
山高等専門学校では、実習船艇の「若潮丸」
,「さざなみ」を用いた広域の CTD 観測を実施している。こうし
た作業を生徒・学生に行わせことは、海の真の姿を五感で感じ、また貴重な現場作業経験になるものである。
キーワード:航海・地球環境,CTD 観測,実習船艇,海洋教育,富山湾
1. はじめに
海の実際を深く知ると行った意味では、非常に効果
1.1
の高いものである。また、先に示したように、富山
富山湾の特徴
富山湾は、西から南を能登半島から富山平野に囲
湾は非常に特徴的な海洋環境を有するもので、こう
まれ、北から東は日本海に大きく開けている半閉鎖
した海洋観測についての、実際のニーズは非常に高
性湾である。そして、平均水深約 600m、最大水深
いものである(2)。こうした海洋環境の観測について
約 1,200m の深い湾であり、かつ岸から約 10~20km
は、人工衛星から電磁波を用いて海表面温度やクロ
の所で深さが 1,000m に達する海底地形となってい
ロフィル a 濃度の計測を行ったり、流れや波に対し
(1)
る 。このため、大陸棚は狭く、湾奥の海底には深
ては数値シミュレーションといった技術があるが、
い谷間となる海底谷が数多く刻まれる。また太平洋
これらに対しても、その精度の検証のために、現場
を南から日本列島に向かって北上して流れる黒潮が
での海洋観測データの取得が重要になってくる。
九州南方で分岐して、日本海には対馬暖流として流
現在、富山県では、近年の国立高専や県立高校の
れ込み、これが富山湾にも流れ込む特性がある。黒
統合再編のため、実習船艇により、教育活動を行っ
潮は数 100m 以上の厚さを持つ流れであるが、対馬
ているのは、国立富山高等専門学校商船学科と、富
海峡の平均水深が約 90~100m であるため、対馬暖
山県立滑川高等学校海洋科、氷見高等学校海洋科学
流の厚さも同等のレベルとなり、日本海に広く分布
科の 3 校である。図 2 に各校の位置と、その海洋観
している。この海流の下層には、深層水である日本
測実習のフィールド位置示す。本論では、滑川高校
海固有水が、富山湾の水深数 100m を越える深部に
と富山高専における、こうした実習船艇を用いた、
広く分布している。そして、富山湾のもう一つの特
海洋観測と、ここに学生を参加させることによる海
徴は、立山連峰に源を発する多くの河川水が流入し
洋教育の実例と意義について記す。
ていることである。これが、塩分の低い沿岸表層水
氷見
高校
として、湾内に広く分布している。
1.2
実習船艇による富山湾の海洋調査
富山県には海技士養成機関として、かつては富山
5n.m.
「 若潮 丸」
CTD 観測点
「かづみの」
CTD 観測エリア
「さざなみ」
観測点 st.6
県に二つの県立の水産高校と、国立の富山商船高等
専門学校があった。ここでは、それぞれに実習船艇
を有して、海技士者や漁業者として必要な海洋観測
富山湾
富山高専
実習を行っていた。こうした、波や流の観測、ある
いは水温・塩分・各種栄養塩等の化学成分の分析作
業は、船舶の運航に直接の関係性が低いものでも、
図1
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滑川
高校
富山高専,滑川高校における海洋観測エリア
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2.滑川高校における海洋教育と海洋観測
2.1
2.2 実習船「かづみの」による調査
海洋クラブの活動
図 3 に示す、滑川高校実習船「かづみの」
(全長
平成 22 年 4 月、海洋高校と滑川高校による新高
20.4m,総トン数 19 トン)で高月海岸から 1km(ポ
校「富山県立滑川高等学校」が開校した。新高校は、
イント 3)、1.8km(ポイント 2)、3.7km(ポイント
普通科(3 クラス)薬業科(1 クラス)商業科(1 ク
1)にて、CTD(Conductivity, Temperature and Depth
ラス)と海洋科(1 クラス)の 4 つの学科をもつ総
profiler:水深・水温・塩分の鉛直プロファイル計,
合制の学校となっている。海洋科は、図 2 に示す、
JFE アドバンテック:AWS387-3C)による水質観測
「食品」、
「栽培」
、「工学」の 3 コース制となってい
を行っている。図 4 に生徒主体の観測状況を示す。
る。海洋科の学習内容は、1 年では全員が同じ専門
図 5 には、2013 年 4 月から 2014 年 1 月までの、
科目を学習し、水産について幅広く学習する。実習
水温,塩分濃度の観測結果を示す。これは、CTD 観
では 3 つの専門を交替で学び、2~3 年では、実習分
測による、深度 0, 10, 20, 30, 50, 75, 100, 200m による
野の専門性を特化している。
ものである。ここから学生が考察して判明した事項
海洋クラブとは海洋科の生徒全員が所属し、海洋
を以下に示す。
科の行事や地域行事、水産・海洋の研究、海洋スポ
・水温は水深に比例して低下する。
ーツなどを行っている。海洋クラブでは、高月海岸
・沿岸に近いほど河川の影響を受けている。
の海底・海岸清掃を行うと同時に海底(藻場)の
・特に水深 10m前後までは河川水による温度変化が
観察もしている。陸上に森林があるように海の中に
強いことが分かる。
も森林があり、海中林と呼ばれている。海中林は藻
・水深 10m前後までは、塩分濃度値が低く河川水が
場とも呼ばれコンブ場、ガラモ場(ホンダワラ)
・テ
影響していると考えられる。
ングサ場、アマモ場という藻場・海藻から成り立っ
・塩分濃度は季節に関わらず、水深 150m 以上で 34
ている。観察でわかったことは、高月海岸の藻場が
パーミル前後に安定している。
平成7年から比べると半分以下の面積になっている
・各月の水温・塩分濃度のデータのばらつきは河川
ということであった。藻場は稚魚や小魚のエサ場と
水が海に流入する量の影響が大きいと考えられる。
なり住処となる。この藻場が小さくなるということ
高月海岸の藻場は河口域にあるため、河川水の
は、魚が少なくなることにつながることになる。
そこで海洋クラブでは海藻定植活動を行うこと
影響を強く受け、これが藻場増減の要因のひとつで
を、海底・海岸清掃、放流とならぶ高月海岸の里海
はないかと考えられ、今後も観測を継続していく。
また、高月海岸の沿岸部では潜水による海洋環境
を守る活動の重点におき、活動を続けている。
調査を行っている。平成 25 年度は、5~12 月までで
12 回の潜水調査を行った。目視で観察をする他、水
温計等をつけたブイを離岸堤内に設置する作業を行
った。目視による調査では、東側の藻場が増え、西
側の一部で藻場が減ることを確認した。
図2
図3
滑川高等学校の海洋を活用する教育体制
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滑川高等学校実習船「かづみの」
第132回講演会(2015年 5月28日, 5月29日) 日本航海学会講演予稿集 3巻1号 2015年4月30日
図4
ポイント 1
水温(℃)
生徒主体による「かづみの」での CTD 観測実習の様子
ポイント 1
塩分濃度(‰)
水深(m)
水深(m)
水深(m)
水温(℃)
ポイント 2
水温(℃)
ポイント 3
塩分濃度(‰)
塩分濃度(‰)
水深(m)
水深(m)
ポイント 3
図5
「かずみの」での CTD 観測実習風景
水深(m)
水深(m)
ポイント 2
図3
2013 年 4 月~2014 年 1 月における「かづみの」の CTD 観測による生徒作成の水温・塩分濃度グラフ
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3.富山高専における海洋教育と海洋観測
CTD with rosette samplers on the aft.
3.1 「若潮丸」による深海観測
deck.
図 6 の 富 山 高 専 の 練 習 船 「 若 潮 丸 」( 全 長
54.59m,総トン数 231 トン)には、CTD と ADCP(超
音波式多層流向流速計)を装備し、富山湾において
多くの海洋調査活動を実施している。CTD(FSI 社
ICTD)では、図 1 に示した計測ポイント(水深約
700~800m)において、原則として一月毎の計測を
実施している。図 7 には、この CTD 観測による水
4 beams ADCP sensor on the bottom.
温・塩分から算出した現場密度の鉛直プロファイ
図6
ルの季節変動(横軸に観測年月)を示すが、夏季
富山高専「若潮丸」及び搭載観測機器
では上層が成層していることが分かる。一方、冬季
には鉛直混合の影響が約 150m まで達している。こ
れらの表層での密度変化影響は、水深約 300~400m
まで達しているが、この 400m 以深は日本海固有水
領域であることが分かる。
また、表層から水深約 50m
までは、低密度層が確認できるが、これは河川水流
入の低塩分水の影響によるもので、その年の降雨量
に大きく影響を受けていることが分析されている。
3.2 「さざなみ」による沿岸部観測
図 7 「若潮丸」CTD 月例観測定点における,水温・
富山高専では、(公財)環日本海環境協力センタ
塩分から算出した現場密度の季節変動(2010 年 3 月
ー と の 共 同 研 究 で 、 実 習 艇 「 さ ざ な み 」( 全 長
~2013 年 6 月)
11.99m,総トン数 15 トン)による、沿岸部の定期観
測航海を行っている(2)。図 8 には、図 1 に示す st.6
における 1 年分の CTD 観測結果を示す。夏期は上層
が高温で成層している。冬期は水深によらず水温が
ほぼ一定となっており、鉛直混合していることが分
かる。上層の、水深約 10m までは、それ以深に比べ
てばらつきが見られるが、流入河川水の影響が大き
いと思われる。富山高専では、こうした観測作業を
学生と行い、これを本科の卒業研究や専攻科の特別
研究のテーマとして活用している。
今後、両校の CTD データを照合して、富山湾沿岸
域の海洋環境特性の把握につとめていきたい。
実船観測では、両校の同乗した乗組員、生徒を初
めとした多くの皆様ご協力を頂いており、ここに謝
意を表させて頂きます。
参考文献
(1) 富山県/日本海学推進機構:富山湾読本,北日本
新聞,pp.328,2012.1.
(2) NPEC:「平成 25 年度環境省請負事務
図 8
北太平洋
図 1 の観測点 St.6 における表層から水深約
50m における CTD 観測での水温の季節変動特性(2)
地域海行動計画活動推進事業報告書」,NPEC,2014.3.
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