形成外科とは - 国立病院機構岡山医療センター

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形成外科とは - 国立病院機構岡山医療センター
形成外科とは
~乳がん治療との関わり~
独立行政法人国立病院機構
岡山医療センター 形成外科医師
高田 温行
形成外科って何・・・?
整形外科と同じ…???
美容外科のこと…???
形成外科とは、身体に生じた組織の異常や変形、欠損、あるいは
整容的な不満足に対して、あらゆる手法や特殊な技術を駆使し、
機能のみならず形態的にもより正常に、より美しくすることに
よって、みなさまの生活の質 "Quality of Life" の向上に貢献する、
外科系の専門領域
社団法人日本形成外科学会HPより
形成外科の対象
美
美容外科
形成外科
正常
腫瘍
先天異常
外傷
醜
再建外科
形成外科学の理念
形成外科医は再建外科であれ美容外科であれ手術
の際には美を念頭に置いて手術をしている。
その目的は体表の醜状に悩む人間の心身を健常に
することである。
健常化とは,生理的生命はもちろん社会生活の維
持のための社会的生命,文化生活のための文化的
生命をも正常に保つことである。
鬼塚
2003
目的=個人を社会に適応させる
「外科系診療科」
①生命を救うこと(救命)
②痛みを除去すること(除痛)
③機能を回復すること(機能回復)
④社会生活の質(QOL:quality of life)を向上
させること
形成外科
形成外科の対象疾患
こんな病気を治します。
けが,やけど
顔面の骨折,軟部組織損傷
唇裂,口蓋裂
手,足の先天異常,けが
その他の先天異常(小耳症,臍ヘルニアetc.)
あざ,皮膚のできもの
悪性腫瘍,それに関連する再建
きずあと,瘢痕拘縮,肥厚性瘢痕,ケロイド
褥瘡,難治性潰瘍
その他(顔面神経麻痺,眼瞼下垂etc.)
美容外科
形成外科は、特定の臓器(呼吸器外科、
脳神経外科など)の病気を治療対象と
する外科ではなく、全身のあらゆる部
位の異常や形態変化を治療対象として
いますので、他の診療科と多くの境界
領域を持っています。
形成外科で行う治療法
•植皮(皮膚移植)術
•皮弁,筋皮弁移植術
•その他の組織移植
(骨,軟骨,脂肪,筋膜等)
•インプラント法(エピテーゼ法)
etc.
植皮(皮膚移植)術
けがやあざ,腫瘍を切除した後にできる
皮膚欠損部位に自己の他の部位から皮膚
を採取し移植する方法
分層植皮
全層植皮
植皮片の採取部位
植皮の生着過程
1.血清浸漬期
(serum inbibition phase)
0~3日
2.血行再開期
(revascularization phase)
1~7日
a. 血管断端間の吻合
b. 母床からの血管新生
3.血行再編期
(vascular reorganization phase)
8日~
血行完成
フリーハンドダーマトーム
ドラム式ダーマトーム
電動ダーマトーム
 シ—ト状植皮(sheet graft)
 網状植皮
(mesh graft)
 切りばり植皮(stamp or patch graft)
少ない皮膚で広い範囲に
植皮できる
美容的に劣る
拘縮しやすい
メッシュダーマトーム
網状植皮(Mesh graft)
分層植皮 sheet graft 手,顔面熱傷
7ヶ月後
分層植皮 Mesh graft 左下腿熱傷
11ヶ月後
皮弁(筋皮弁)移植術
皮弁とは・・・
皮膚及び軟・硬複合組織の移動,移植
茎(pedicle)を通して血液の供給を受けるもの
血流のある組織移植
血行が良く瘢痕化,拘縮が少ない
適応
その他
乳房再建
自然治癒の難しい難治性潰瘍
感染を起こしている場合が多い
植皮は不適当
血行の良い組織で再建
瘢痕の著明な部位
拘縮しにくい
有茎皮弁
pedicle flap
茎を有する
茎を介した血流がある
血行が不安定
到達距離に限界
遊離皮弁
free flap
マイクロサージャリーにて
血管(動脈,静脈)を吻合
解決
遊離皮弁 free flap の欠点
 吻合に十分な血管を必要とする
 動脈硬化その他血管変性疾患には不適
 吻合部に血栓ができると皮弁全体が壊死に
陥る
 手術時間が長く,技術を要する
代表的な皮弁,筋皮弁
大胸筋皮弁
Pectoralis Major Myocutaneous flap
( PMMC flap)
広背筋弁
Latissimus Dorsi
( LD)
•筋体を含む皮弁,含まない
皮弁どちらも作成可能
•血行の安定した皮弁
•腹壁瘢痕ヘルニア
Vertical Rectus Abdominis Myocutaneous flap VRAM flap
Transverse Rectus Abdominis Myocutaneous flap TRAM flap
前外側大腿皮弁
ALT flap
•薄くてしなやか
•筋体を含まない
•血管柄が長い
•巨大な皮弁が作成可能
•頭頸部と同時進行が可能
その他組織移植
小耳症
肋軟骨移植
インプラント,エピテーゼ
インプラントとは・・・
体内に埋め込まれる器具の総称(プロテーゼ)
エピテーゼとは・・・
医療用具として体の表面に取り付ける人工物のこと
形成外科による再建外科
外傷
先天性変形
後天性組織欠損、
腫瘍により切除された身体の変形
自家組織移植、人工物
機能と形態の復元
形成外科による乳房再建
本法において乳がんは女性のがん発生率の1位を占める
国として早期発見,早期治療を推進
乳がん治療も大きく変化
根こそぎ切除⇒乳がん手術の縮小化
乳がん手術が縮小したことにより,
術後の乳房形態が改善した?
乳房温存術後の乳房形態の高度変形
をきたす方も多いのが現状
乳がん術後の乳房再建術
2006年4月の保険点数改正
乳がん術後の一期再建術と二期再建術が保険
点数として正式に認められるようになった。
今後は全国的に増加の一途をたどると思われる。
乳がん治療を行う外科医が常駐する施設は多い。
乳房再建を行うことができる
形成外科医,外科医は多くの施設では不在。
当施設で行っている乳房再建
広背筋皮弁
腹直筋皮弁
有茎横軸型腹直筋皮弁(TRAM flap)
遊離深下腹壁動脈穿通枝皮弁(free DIEP flap)
人工物
シリコンバッグ
自家組織か人工物か?
自家組織(皮弁移植)
利点
保険適応
欠損に応じて組織を選択(広背筋,腹直筋etc.)
柔らかく,年月とともに下垂。自然な乳房形態
欠点
皮弁採取部に新たに傷を作る。
合併症の問題(腹壁瘢痕ヘルニアetc)
手術時間,入院期間が長くなる
人工物(インプラント)
利点
乳房以外の部位に傷跡を残さない。
手術時間が短い。社会復帰が早い。
欠点
自費診療
下垂乳房の再建ができない。
バッグの破損,露出,被膜拘縮による変形,ずれ
感染
一次再建か二次再建か?
一次再建
利点
切除組織を確認して再建可能
手術回数が少ない。
乳房喪失の経験をしない。
欠点
乳がん残存の可能性
残存乳房皮膚の壊死
手術時間の長期化
二次再建
利点
乳がんの病理組織を確認した後再建できる
乳がんの手術が長くならない。
別の施設で再建可能
欠点
手術回数が増える。
乳房の皮膚が瘢痕拘縮によって不足
いつ,どの方法で再建する?
いつ…?
乳腺外科医の意見
患者さんのご希望
一次,二次再建の決定
・抗がん剤,放射線治療中は行えない
・ホルモン療法中は可能
どの方法で…?
患者さんのご希望
乳房の大きさ,切除範囲,
体型,年齢
妊娠・出産の希望
手術歴,糖尿病etc.
職業,趣味
再建の理解度
決定
乳房再建法の選択
乳房小さい
広背筋
インプラント
乳房大きい
下垂
腹直筋
当施設での乳房再建の特徴
まず乳がん根治術時にエキスパンダー(組織拡
張器)を挿入し,徐々に切除部の皮膚を伸ばし
ていき,十分伸びた段階で自家組織,もしくは
インプラントで再建することを推奨。
即時再建も可能(インプラントは不可)
当施設での乳房再建の方針
一次再建
6~12カ月
乳がんの根治手術
+
エキスパンダー
二次再建
乳がんの根治手術
エキスパンダー
シリコン
インプラント
自家組織
広背筋・腹直筋皮弁
Tissue Expander(組織拡張器)
皮下に埋入し、生理食塩液を徐々に注入し
て膨らませることで、皮膚を伸展させる。
解剖
この方法のメリット
エキスパンダーを徐々に膨らませる間に必要な化学療法
等を受けることができる。
乳がんの手術からの回復が早い。
乳がんの根治手術の最終病理診断をきちんと得たうえで
再建手術を行うことができる。
再建を自家組織にするかインプラントにするか冷静に考
えることができる。
最初に決定しなくてもよい。
何度も相談できる。
皮島(皮弁の皮膚)を胸部に出さずに再建できる。
つぎはぎにならない。
皮島(つぎはぎ)とは・・・
皮膚の足りない部分を皮弁の皮膚で補うため,
色調の異なる不自然な皮膚が胸部に残る。
エキスパンダーで胸部の皮膚を伸ばすことで,
つぎはぎをできるだけ作らない。
この方法のデメリット
手術は少なくとも3回必要
1回目:乳がん手術 + エキスパンダー挿入
2回目:再建手術
3回目:乳輪乳頭形成手術,(修正)
人工物を挿入するため,破損,感染の可能性あり。
術式
手術
手術終了時
術後
術後約1週間で初回の生食注入
以後1週間ごとに50cc程度注入
健側と同等のふくらみ
⇒再建時のボリュームの目安
さらに注入
⇒容量の30~50%増し
しばらくその状態で待機
インプラント入れ替え
or 自家組織で再建
・・・初回手術から6ヵ月後~
術後
乳房の膨らみはあり,
まったくの乳房喪失感
はない
約2.5カ月
その後…
乳腺外科でのフォロー
形成外科でのエキスパンダーへの生理食塩水注入
今後の再建の相談
再建
乳房再建
•広背筋皮弁
•腹直筋皮弁
•インプラント
•乳頭,乳輪再建
広背筋皮弁
Latissimus Dorsi LD
乳房再建 (広背筋皮弁)
右乳癌
約1カ月
乳房再建 (広背筋皮弁)
左乳癌
約2.5カ月
•筋体を含む皮弁,含まない
皮弁どちらも作成可能
•血行の安定した皮弁
•腹壁瘢痕ヘルニア
Vertical Rectus Abdominis Myocutaneous flap VRAM flap
Transverse Rectus Abdominis Myocutaneous flap TRAM flap
腹直筋皮弁採取後
弓状線より尾側には
腹直筋後鞘がない
腹壁瘢痕ヘルニアの予防
術後1カ月はおなかに力を入
れない
術後3カ月はハードな運動は
禁止
術後6カ月は腹帯・補正下着
の使用
乳房再建 (遊離腹直筋皮弁)
両側乳癌
術前
1ヶ月後
乳房再建 (有茎腹直筋皮弁)
左乳癌
約1年
インプラント
エキスパンダー
インプラント
Allergan社製 Style410
乳房再建 (インプラント)
右乳癌
約3カ月
乳房再建 (インプラント)
右乳癌
約1年
乳輪・乳頭再建
健側乳頭の移植
(composit graft)
脱上皮
大腿内側基部からの
全層植皮
40日後
乳輪・乳頭再建
エピテーゼ
インプラントとは・・・
体内に埋め込まれる器具の総称(プロテーゼ)
エピテーゼとは・・・
医療用具として体の表面に取り付ける人工物のこと
人工乳頭
人工乳房
国立病院機構
岡山医療センターでの乳房再建
術前にできる限り患者様とお話をさせていただき,
ご希望,乳房の形態,体の状態,
社会的バックグラウンドなどを考慮し,
最善と思われる方法をいっしょに探していきたい
と思っています。
乳房の再建を行うこと,また,形成外科を
受診することで患者様の心の負担が少しで
も和らげば・・・,と常に考えています。
乳腺外科と形成外科との
チーム医療

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