針刺し対策における<リキャップ禁止>について 済生会福岡総合病院中央手術部 職業感染制御研究会 松田和久
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針刺し対策における<リキャップ禁止>について 済生会福岡総合病院中央手術部 職業感染制御研究会 松田和久
針刺し対策における<リキャップ禁止>について 済生会福岡総合病院中央手術部 職業感染制御研究会 松田和久 I. はじめに 「医療機能評価の際に、針捨てボックスにリキャップされた中空針(通常の 注射針)があると減点される!」などと耳にしたことがあります。 私は、サーベイヤーでもなんでもありませんが、<リキャップされた中空針 が1本みつかったから機能評価で落ちる>など考えられません。職業感 染制御研究会のなかでもいろいろな意見はありますが、<1本のリキャッ プされた中空針が決定的なことになることはない。>というのが一致した意 見と思います。 II. 針刺し対策の当院の現状から<リキャップ禁止>を考えてみます。 当院手術部における針刺し対策 1)原則リキャップ禁止:リキャッップが必要な場合はリキャップデバイスを 使うか、片手リキャップ、2段階リキャップで行うこと 2)耐貫通性容器(廃棄専用容器)の設置 3)プラスチック針の利用(通常の中空針と混在) 4)翼状針はすべて安全装置付きに統一 5)安全装置付き静脈留置針(通常のものと混在) 6)安全リキャップデバイス などがあります。 麻酔業務上、薬液は中空針を用いて投与し、残りがある時には当然です が、リキャップしています。その薬液をシリンジごと捨てて次に必要な時に は再度別のアンプルを開けるということはしていません。リキャップしない ですむものは、せずにそのまま耐貫通性容器に捨てます。 リキャップする場合には、金属針でもプラスチック針でもできるだけ、リキャ ップデバイスを使うか、片手リキャップ、2段階リキャップ(90°や120°で リキャップする方法)を推奨して、針とキャップが直線的に並ぶようなリキャ ップはしないように指導しています。直線的なリキャップは、高い確率で針 刺しを起こすからです。 プラスチック針は、あまり鋭利でないので非常に有効です。一度針刺しを 起こした麻酔科医は、その後プラスチック針を使う傾向になります。 昨年、医療機能評価受審しましたが、リキャップされた中空針の話はでま せんでした。 III. 「エイズ拠点病院における1996 年~ 2000 年(5 年間)の針刺し・切創の現状と対策」(主任研究者 木村 哲 平成15 年3 月)によると、 針刺しの発生状況ではリキャップ時が24 %で最も多く、針刺しの2大原因器材は、中空針(通常の注射針)と翼状 針であり、この2器材で全針刺しの50%以上を占めていた。この報告の考 察として、 1) 中空針ではリキャップ時の針刺しが最も多かったので、中空針ではリ キャップをせずに廃棄するのが針刺しを減らすのに最も有効と思われ た。 2) 翼状針では使用後廃棄までの次にリキャップ時が多かった。ということ は、翼状針をリキャップ禁止にすると、むき出しの針が増えるため、廃 棄までの針刺しが逆に増加することが考えられる。このことから翼状針 では、リキャップが不要で、廃棄までが安全な安全装置付器材の必 要性が明確となった。 この報告から、中空針を筆頭とする鋭利物は、リキャップ禁止が原則では あるが、器材によって<リキャップ禁止>の効果が同じように期待出来る わけではないことがわかります。 IV. 2007年の中小病院/診療所を対象にした医療関連感染制御策指針(案) (主任研究者小林寛伊) によると 5-13. 職業感染防止 医療職員の医療関連感染制御も重要な課題であり、十分な配慮が望ま れる。 そのなかでの奨励業務として 1) 針刺し防止のためリキャップを原則的には禁止する。Ⅰ、NB 2) リキャップが必要な際は、安全な方法を採用する。Ⅰ、NB 3) 試験管などの採血用容器その他を手に持ったまま、血液などの入っ た針付き注射器を操作しない。Ⅰ、NB 4) 廃棄専用容器を対象別に分けて配置する。Ⅰ、NB 5) 使用済み注射器(針付きのまま)その他、鋭利な器具専用の安全廃棄 容器を用意する。Ⅰ、NB 6) 安全装置付き器材の導入を考慮する。Ⅱ、NB 奨励業務の基準は、 Ⅰ:各施設共、可能な限り採用すべき感染制御策 Ⅱ:各施設の条件を考慮して、できれば採用すべき感染制御策 NB:無床診療所でもⅠ、Ⅱの基準に従って採用すべき感染制御策 とする。 ということである。 1)2)を見ていただければ、リキャップを原則的には禁止しているが、必要 な際は、安全な方法でリキャップしなさいと読める。本指針作成者の一人 からも、「リキャップが必要な場合まで禁止しているわけではありません。」 との私信をいただいている。 V. 医療機能評価の対策 医療機能評価version6 においては、 5.5.1.4 針刺し・切創についての対策を実施している 1. 針刺し損傷防止対策が遵守されているのみの記載であるので、上記1)〜 6)を採用すれば十分と思われる。 注意)従来日本では「針刺し事故」と呼ばれていた「針刺し損傷(Needle Stick Injury)」は、事故Accidentととらえると(予測が難しい、避け難いもの)とな るので、事故と呼ぶのは本来の意味とは異なると思われる。Injuryとは、( 予測が可能で予防可能)なものでありここでは、いわゆる“針刺し事故”を“ Needle Stick:針刺し”と“Needle Stick Injury:針刺し損傷”と呼ぶことにする。(職業感染制御研究会) 参考) 1) 職業感染制御研究会ホームページ http://jrgoicp.umin.ac.jp/index.htm : 「エイズ拠点病院における 1996 年~ 2000 年(5 年間)の針刺し・切創の現状と対策」 (主任研究者 木村 哲 平成15 年3 月) 2)厚労省ホームページ http://www.mhlw.go.jp/ :中小病院/診療所を対象にした医療関連感染制御策指針(案) 主任研究者小林寛伊、分担研究者大久保憲、研究協力者尾家重 治、渡會睦子