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糖尿病とその治療 医療法人 成春会 北習志野花輪病院 糖尿病内科 木下 潤一朗 糖尿病についての基礎知識 A.定義 (a) 糖尿病とは 糖尿病はインスリン作用の不足による慢性の高血糖状態を主徴とする代謝疾患群である。後述する診断基準からもわかるように、「糖尿」ではなく「高血 糖」が問題なのだから、本来なら「高血糖症候群」とでも称するほうが適切であろう。また「インスリンの不足」ではなく「インスリン作用の不足」と表記する のは、インスリンの供給不足だけでなく、インスリン標的臓器での感受性の低下による相対的な不足も含むからである。 糖尿病の病態を整理して考えるうえで、「インスリン分泌不全」、「インスリン抵抗性」、「ブドウ糖毒性(Glucose Toxicity)」の 3 つが重要なキーワードとな る。インスリン分泌不全は血糖を正常化するのに必要なインスリンが充分に分泌されないことであり、インスリン抵抗性はインスリンが効きにくくなった状 態である。ブドウ糖毒性とは高血糖がもたらす障害のことで、高血糖自体がインスリン分泌不全やインスリン抵抗性を増悪させる一因となることが知られ ている。もちろんこれらが単独で糖尿病の成因となっていることはきわめて稀であり、ほとんどの場合 3 者が絡み合って糖尿病を形成している。 典型的な症状として口渇、多飲、多尿、体重減少などがあげられるが、大多数の症例ではほとんど無症状であるということを強調しておきたい。 だから健康診断などの機会に発見し早期に治療を開始することが求められている。 高血糖の持続は急性あるいは慢性の合併症を発症し、日常生活に著しい障害をきたすが、早期発見と厳格な血糖コントロールにより合併症の発症・進 展阻止は可能であることを明記しておきたい。 (b) 病型分類 糖尿病を成因で分類すると以下のようになる。 1 型(β細胞の破壊、通常は絶対的インスリン欠乏に至る) A. 自己免疫性 B. 特発性 2 型(インスリン分泌低下を主体とするもの、インスリン抵抗性が主体でインスリンの相対的不足を伴うもの、など) その他の特定の機序、疾患によるもの A. 遺伝因子として遺伝子異常が同定されたもの B. 他の疾患、条件に伴うもの(例:膵切除後やステロイド投与によるものなど) 、妊娠糖尿病 (c) 糖尿病の合併症 急性合併症と慢性合併症とに大別され、次のようなものがある。2 型糖尿病が大半をしめる本邦では、慢性合併症の発症・進展阻止が大きな課題。 1.急性合併症 ①急性代謝失調(糖尿病昏睡):糖尿病ケトアシドーシスと高血糖高浸透圧症候群があり、重症になると意識障害や昏睡をおこす。 ②感染症:血糖コントロールが悪いと免疫能が低下し、種々の感染症に罹患しやすくなる 2.慢性合併症 ①細小血管症:糖尿病特有の合併症である (1) 糖尿病網膜症 (2) 糖尿病腎症 (3) 糖尿病神経障害 ②大血管症(動脈硬化性疾患):いわゆる動脈硬化症であるが、糖尿病患者は境界型の段階からその進展が健常者より早い (1) 冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞) (2) 脳血管障害(脳梗塞) (3) 末梢動脈疾患(Peripheral Arterial Disease; PAD)(閉塞性動脈硬化症) ③糖尿病足病変(壊疽):上記の末梢動脈疾患、糖尿病神経障害、急性感染症などが関与して形成される。 ④その他 (1) 手の病変(腱鞘炎、手根管症候群、Dupuytren 拘縮など) (2) 歯周病 (3) 認知症 B. 検査値・診断基準 日本糖尿病学会の診断基準に基づいて作成されたフローチャートを示す。 なおフローチャートを含めた「糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告(国際標準化対応版)」の全文は日本糖尿病学会のホームページから PDF ファイルで参照できる。 http://www.jds.or.jp/uploads/photos/946.pdf また、血糖コントロールの指標としては、HbA1c 以外にもグリコアルブミンや 1,5-AG(1,5-アンヒドログルシトール)などがある。なお「食後 2 時間血糖値」 を問題にする場合があるが診断基準には存在していない指標であり、強いていえば「随時血糖値」に含まれる。特に 75 g 経口ブドウ糖負荷試験(OGTT) 2 時間値と混同しないよう注意が必要である。 C. 治療の原則 I. 治療の目的 糖尿病治療の目的は、合併症の阻止にあるといって過言ではない。健常者と変わらない日常生活と寿命を確保するためには、何より合併症を起こさな いこと、既に合併症を発症していた場合はそれ以上に進展させないことが重要である。またある程度まで合併症が進むと進展阻止が不可能となってしま うため(これを「point of no return を超えた」と称する)、できるだけ早期に発見し治療を開始しなければならない。 合併症の発症・進展を阻止するためには良好な血糖コントロールの維持に尽きることが、様々な臨床研究の結果で明らかとなっている。さらに糖尿病発 見早期から厳格な血糖コントロールを維持すると、その影響が後年まで持続し、合併症の発症抑制効果(“metabolic memory”や“legacy effect”などと呼 ばれている)があるという研究結果も発表されている。また血糖ばかりでなく体重、血圧、血清脂質を良好なコントロール状態に保つことも重要である。 II. 治療の目標 究極の治療目標は “normoglycemia at all times”ということになるが、日本糖尿病学会は『熊本宣言 2013-あなたとあなたの大切な人のために Keep your A1c below 7%-』を発表した。まず細小血管症の予防や進展抑制のための HbA1c 7%未満を大きく掲げ、「年齢、罹病期間、臓器障害、低血糖の 危険性、サポート体制などを考慮して個別に決定する」としている。具体的には、「6.0%未満」に対し「適切な食事療法や運動療法だけで達成可能な場 合、または薬物療法中でも低血糖などの副作用なく達成できる場合」、「8.0%未満」には「低血糖などの副作用、その他の理由で治療の強化が難しい場 合」と説明している。 また血糖コントロール以外にも体重、血圧、血清脂質も目標を達成するようにしなければならない。特にメタボリックシンドロームの症例では、境界型糖 尿病でも動脈硬化性疾患を発症する可能性が高いため、血糖以外の管理も重要である。 血糖コントロールの目標 血糖正常化を 合併症予防 治療強化が 目指す際の目標 のための目標 困難な際の目標 HbA1c(%) 6.0 未満 7.0 未満 8.0 未満 体重 BMI(Body Mass Index)で 22 を標準体重、25 以上を肥満とする。治療目標は標準体重である。しかし肥満の場合は当面現体重の 5%減をめざす。また BMI が 22 以下でも積極的に体重増加をはかる必要はない。 BMI の算出は以下のように行う。 BMI=体重(kg)/身長(m)2 血圧 収縮期血圧 130 mmHg 未満(尿蛋白 1 g/日以上の場合は 125 mmHg 未満) 拡張期血圧 80 mmHg 未満(尿蛋白 1 g/日以上の場合は 75 mmHg 未満) 血清脂質 LDL コレステロール 120 mg/dL 未満(冠動脈疾患がある場合 100 mg/dL 未満) HDL コレステロール 40 mg/dL 以上 中性脂肪 150 mg/dL 未満(早朝空腹時) non-HDL コレステロール* 150 mg/dL 未満(冠動脈疾患がある場合 130 mg/dL 未満) (*non-HDL コレステロール = 総コレステロール - HDL コレステロール) III. 治療方法 1. 急性の代謝失調があるか?~ただちにインスリンが必要か? 1 型、2 型にかかわらず急性合併症(特に糖尿病昏睡)を発症しているか、発症の前段階であれば、直ちにインスリン療法の適応である。1 型糖尿病が 疑われる場合(GAD 抗体陽性など)は、そこに至っていなくともインスリンを使用しなければならない(インスリンを早期から使用することにより、自己イン スリン分泌能を保護する効果が期待できる)。また妊娠糖尿病の場合、食事療法のみでコントロールがつかなければ、経口薬は用いずインスリンの適応 となる。これらの症例は原則としていずれも専門医に紹介する必要がある。 また緩徐進行 1 型糖尿病は一見 2 型糖尿病と見分けがつかないことがあるため、家族歴のない非肥満例や、治療効果が思わしくないときには GAD 抗 体の測定を考慮したい。 インスリン療法に対しては「インスリンは一度始めるとやめられなくなる」といった、あたかも「インスリン注射が原因で膵臓のインスリン分泌能が低下・廃 絶する」かのような誤った知識が普及しており、なかには医療関係者すらこのように考えている例すら見られる。これは明らかに誤りであり、必要な時期 にインスリン療法を開始する妨げとなっているので、声を大にして訂正しておきたい。それどころか長期間にわたる高血糖の放置が膵臓のインスリン分 泌能の低下・廃絶をもたらすこと、すなわち必要なのにインスリン療法を避けていた結果、本当に一生インスリンをやめられなくなる可能性があることを 知っておいていただきたい。極端な言い方をすれば、「インスリンを使わなければならない症例はあっても、インスリンを使ってはいけない症例はない」の である。 2. 食事療法 前記のように急性代謝失調がなければ、まず食事療法から開始しなければならない。「食事療法のない糖尿病治療」はありえないのである。 食事療法は 2 つの方向ですすめる。ひとつは食習慣の改善、もうひとつは食事の摂取量の改善(通常は「食べ過ぎ」の改善)である。 食習慣を改善するには、まず患者の食習慣を聴取する必要がある。 (1) 朝・昼・夕食は何時に、どこで、誰が作ったものを食べるのか。 (2) おやつや夜食などの間食はどうか。 (3) アルコール類や、コーラ・ジュースなど糖分を含む清涼飲料水などの摂取量はどうか。 などのポイントについて聞き出し、「毎食のごはんを 1 膳ずつにする」「おやつをやめてみる」「アルコールをいったんやめてみる」など、問題点を具体的に 是正していく。 食事の摂取量は「標準体重 1 kg あたり 25~30 kcal」を目安に指示する。この際、肥満傾向であれば 25 kcal/kg に近く、肥満がなく身体活動が活発であ れば 30 kcal/kg に近く設定する。指示カロリーは 200 kcal きざみか、最低でも 100 kcal きざみとし、あまり細かい指示は意味がないので行わない。(後 述の『交換表』では 1200、1440、1600、1840 kcal で例示されている。) (例)身長 170 cm、体重 80 kg の場合 BMI=27.7 であり肥満のため 25 kcal/kg に近くする 標準体重 63.6 kg(1.7×1.7×22=63.58)であるので 63.6 kg×25 kcal/kg=1590 kcal≒1600 kcal 「1600 kcal」を指示カロリーとする 上記の「標準体重 1 kg あたり 25~30 kcal」は軽作業を行っている場合と肥満のある場合の目安であるが、日本人の大部分が軽作業であり、かつ肥満 者が増える傾向にあるので、ほとんどの場合にこの 25~30 kcal/kg 標準体重があてはまる。 なお普通の労作(立ち仕事が多い職業など)では 30~35 kcal/kg 標準体重、重い労作(力仕事が多い職業など)では 35~ kcal/kg 標準体重とされてい る。 指示カロリーが決まれば『糖尿病食事療法のための食品交換表』(日本糖尿病学会編、日本糖尿病協会・文光堂発行)(以下『交換表』と略す)に基づい て食事療法を開始する。『交換表』は 1 単位=80 kcal として、食品を表 1 から表 6 までの 6 種類に分類し、それぞれの表ごとに摂取単位数を指示する ようになっている。通常、単位の配分は『交換表』に記載されている配分例に従えばよい。『交換表』の利点は指示された食材の量を守るだけで、患者自 身がカロリー計算をする必要がないことである。「カロリー計算が難しくてできない」と言って食事療法を免れようとする患者をときに見かけるが、少なくと も「カロリー計算」は不要であることは理解させておきたい。また女子栄養大学編集の書籍が数多く出版されているが、1 単位=80 kcal としている点は 同じであっても食品を 4 群に分けており、『交換表』の 6 群と異なるため混乱を招く可能性が高い。そのため少なくとも食事療法導入の際は『交換表』の みか、『交換表』とこれに基づいたもの(メニュー・ブックなど)の併用に限ったほうがよい。 診療のたびに医師自身が食生活に対し具体的な指示を行うことが望ましいが、食事指導は管理栄養士が行わないと健康保険の点数として加算できな いし、限られた診療時間内で充分な指導は困難なこともあるので、管理栄養士の指導は有用である。近くに管理栄養士がいないときは保健所の行う栄 養相談などを活用すればよいので、詳細は地域の保健所に問い合わせて欲しい。 「食習慣の改善」と「食事の摂取量の改善」は明確に分離できるものではないが、例えば『交換表』を使えないという患者でも、「食習慣の改善」でおやつ やジュースをやめただけで著しく血糖コントロールが改善することもあるため、あきらめず患者にできる限りのアプローチを試みる価値はある。 糖尿病食はバランスのよい健康食であるので応用範囲は広く、糖尿病がない健康人が食べてもよいし、肥満者や脂質異常症患者の治療にも利用でき る。もちろんメタボリックシンドロームの食事療法にも最適である。 なお患者に食事療法を指導する際にしばしば頭を悩ませるのが、マスコミにおけるさまざまな「ダイエット」情報の氾濫である。テレビのワイドショーや女 性週刊誌を中心に、次々と「……ダイエット」なるものが現れては消えていき、 その多くはいつの間にか忘れられていくのだが、あまりに科学的根拠に 乏しいものも数多く含まれている。確かに食事療法自体、厳密な臨床研究を実行するのが非常に難しい分野ではあるが、日本糖尿病学会では『日本人 の糖尿病の食事療法に関する日本糖尿病学会の提言 ~糖尿病における食事療法の現状と課題~』を発表し、今後もさらなる科学的根拠の構築をめ ざすと表明している。当然『交換表』の最新版(第 7 版、2013 年 11 月発行)にもこの提言が反映されている。 『日本人の糖尿病の食事療法に関する日本糖尿病学会の提言 ~糖尿病における食事療法の現状と課題~』は以下のページから閲覧できる。 http://www.jds.or.jp/modules/important/index.php?page=article&storyid=40 3. 運動療法 運動はエネルギーを消費するだけでなく、筋萎縮を防ぎ、心肺機能の向上やインスリン感受性を改善する効果がある。ただ空腹時血糖が 250 mg/dL 以 上や尿ケトン体中等度以上陽性など血糖コントロールが悪い場合、糖尿病網膜症による新鮮な眼底出血がある場合、腎不全や心肺機能に障害のある 場合は行わない。 長期間にわたって実行しつづけることが重要で、そのために特別な運動よりも「いつでも、どこでも、一人でも」できる運動が望ましく、日常生活に組み入 れられることも重要である。そういう条件からみて「歩行」などを中心に考えるのが妥当であろう。 運動量は 1 回 15~30 分の運動を 1 日 2 回行うのがよく、運動の強度は「少し汗ばむ程度」を目安に行う。具体的には通勤や帰宅の際にバスに乗って いたところを歩かせる、買い物の際に遠回りをさせるなど、必ず運動を行うような条件をつくるとよい。 4. 薬物療法 糖尿病治療の基本である食事・運動療法を実行させ、1~3 ヵ月は血糖の動きを観察する。そこで HbA1c や空腹時血糖などの改善がなければ、食事・ 運動療法が確実に実行できているかを確認した上で(少なくとも体重増加があるようではいけない)薬物療法を開始する。薬物療法はあくまで食事・運動 療法が十分に実行された上に導入するものである。 しかし実際には食事・運動療法が不十分な例も数多く存在する。その際、今後も食事・運動療法の 十分な実行が期待できないが、高血糖を放置するよりは薬物療法を開始した方が無難と判断して投薬を開始することもある。 薬剤の選択はインスリン分泌不全、インスリン抵抗性、ブドウ糖毒性のいずれを主に改善すべきかによって行う。 処方及び処方解説 長いあいだ糖尿病の経口薬はスルフォニル尿素薬とビグアナイド薬のみであった上、ビグアナイド薬はほとんど用いられなかったため、非常に選択の余地 の狭い状況が続いていた。ところが糖尿病が生活習慣病として注目を集めるようになった 1990 年代になると、α-グルコシダーゼ阻害薬を皮切りに種々 の新たな糖尿病治療薬が登場し、ビグアナイド薬も再評価されたため、薬剤選択の幅は大きく広がった。 そのうえ 2009 年からはインクレチン関連薬が相次いで登場し、2014 年からは SGLT2 阻害薬も使用できるようになった。 作用機序の異なる複数の薬剤の併用が可能になったことで、より良好な血糖コントロールを得る手段が大きく拡がったといえるだろう。 現在用いられている薬剤を大別した上で、個別に概説する。 特にインスリン分泌惹起薬とインスリン分泌増強薬の分類は本稿独自である。血糖値にかかわらずインスリン分泌を“スイッチ・オン”とするような薬剤、す なわち空腹の健常人に投与すれば低血糖をおこす薬剤を「インスリン分泌惹起薬」、“スイッチ・オン”になった状態のインスリン分泌を増強させる薬剤を「イ ンスリン分泌増強薬」とした。単独投与で低血糖を起こすか否かは、薬剤を選択する上で重要な観点であるので、これを明確にするためである。 経口薬の分類 インスリン分泌惹起薬 スルフォニル尿素薬(SU 薬) 速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬) インスリン分泌増強薬 インクレチン関連薬 (DPP-4 阻害薬、GLP-1 受容体作動薬) 食後血糖上昇抑制薬 α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI) インスリン抵抗性改善薬 尿糖排泄促進薬 ビグアナイド薬(BG 薬) チアゾリジン薬 SGLT2 阻害薬 なお『糖尿病治療ガイド 2014-2015』(日本糖尿病学会編・著)では以下の 3 群に分類している。 インスリン抵抗性改善系:ビグアナイド薬、チアゾリジン薬 インスリン分泌促進系:スルフォニル尿素薬、グリニド薬、インクレチン関連薬 糖吸収・排泄調節系:α-グルコシダーゼ阻害薬、SGLT2 阻害薬 1. スルフォニル尿素薬(SU 薬) 膵臓を刺激してインスリンを分泌させることにより血糖を低下させる(すなわち正常血糖に投与すれば低血糖を起こし得る)薬剤である。そのため自己イ ンスリン分泌能がある程度保たれた症例でないと血糖が低下しない。膵から門脈へ分泌される生理的なインスリン作用経路を介して効果が発現する利 点がある。一部の薬剤には膵外作用(インスリン抵抗性改善作用など)があるとされる。また二次無効といって SU 薬の長期使用により膵β細胞が疲弊 し、血糖降下作用が減弱してくることもある。 スルフォニル尿素薬の種類 一般名 主な商品名 グリベンクラミド オイグルコン グリクラジド グリメピリド ダオニール グリミクロン グリミクロン HA 血中半減期 作用時間 1 錠中の含有量 1 日の使用量 (時間) (時間) (mg) (mg) 2.7 12-24 6-12 12-24 1.5 12-24 1.25 2.5 40 20 0.5 1 3 1.25-10 20-160 0.5-6 (『糖尿病治療ガイド 2014-2015』日本糖尿病学会編・著、文光堂より一部改変) 2.速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬) SU 薬と同様に、膵臓でのインスリン分泌を刺激して血糖を低下させる薬剤である。作用発現時間と作用持続時間が短いので、速効型・短時間作用型の SU 薬と考えればわかりやすいだろう(むろん SU 薬ではないが)。そのためα-グルコシダーゼ阻害薬と同様に「毎食直前」に投与する。また SU 薬にみ られるような低血糖の遷延はない。SU 薬に比し血糖降下作用は弱いが、SU 薬では早朝空腹時血糖値が下がりすぎてしまう例や、インスリン離脱時な どに有用である。 速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)の種類 一般名 主な商品名 0.8 3 30 90 180-360 ミチグリニド グルファスト カルシウム水和物 1.2 3 5 10 15-60 レパグリニド 0.8 4 0.25、0.5 0.75-3.0 ナテグリニド ファスティック スターシス 血中半減期 作用時間 1 錠中の含有量 1 日の使用量 (時間) (時間) (mg) (mg) シュアポスト (『糖尿病治療ガイド 2014-2015』日本糖尿病学会編・著、文光堂より一部改変) 3.インクレチン関連薬 インクレチン関連薬はインスリン分泌を増強させるにもかかわらず、単独では低血糖を起こさないという、糖尿病治療にとって理想的な作用を示す薬剤 である。 インクレチンとは食事の摂取が刺激となって消化管から分泌されるホルモンで、小腸のK細胞由来の GIP(glucose dependent insulinotropic polypeptide) と、おなじく小腸の L 細胞由来の GLP-1(glucagon-like peptide-1)の 2 種が同定されている。その作用は膵β細胞におけるインスリン分泌のブースター とでも言えば分かりやすいだろう。(あるいは自動車エンジンのターボ回路などに例えられようか)すなわち血糖上昇などのインスリン分泌刺激が加わっ たときにインクレチンが存在すると、より多くのインスリンが分泌される。ところがインクレチン単独ではインスリンを分泌させないので、正常血糖の状態で インクレチンを投与しても低血糖は起こさない。 また GLP-1 にはグルカゴン分泌抑制(すなわちインスリン抵抗性改善作用)や食欲抑制などさまざまな作用があり、それは体重増加をきたしにくいとい う特長をもたらすだけでなく、実際に GLP-1 受容体作動薬は海外で抗肥満薬としての治験が進行している。さらに GLP-1 受容体作動薬には膵β細胞 の保護効果も期待されている。 このような特性は理想的なのであるが、実際はインクレチンが DPP-4(dipeptidyl-peptidase-4)という酵素で速やかに分解されてしまうため、単純にイン クレチンを投与しても臨床上に必要な効果は得られない。そこで DPP-4 を阻害して生体内のインクレチンを有効に活用する方法(DPP-4 阻害薬)と、 DPP-4 によって分解されにくいインクレチン・アナログを投与する方法(GLP-1 受容体作動薬)で実用化された。なお後者は注射薬であるが、前述のとお りインスリンとは全く異なる作用機序を持っていることから、「経口薬」の項で扱っている。注射器具は大部分の製品がインスリンのペン型注入器と同じも のを用いている。 DPP-4 阻害薬発売直後に低血糖が頻発したことを受け、日本糖尿病学会は使用法に関する『Recommendation』を発表した。 (http://www.jds.or.jp/modules/important/index.php?page=article&storyid=7)最終の修正が 2011 年 9 月 29 日のため、それ以後に発売された薬剤につ いては記載されていないが同様に扱えばよい。とりわけ SU 薬と併用する際の SU 薬の推奨用量は必見である。(後述) なお GLP-1 受容体作動薬の添付文書における効能・効果欄の記載からビクトーザ以外は他剤との併用が前提となっているため、単独での使用は健康 保険で査定の対象となる可能性がある。(詳細は後述) DPP-4 阻害薬の種類 血中半減期 作用時間 1 錠中の含有量 1 日の使用量 (時間) (時間) (mg) (mg) 一般名 主な商品名 シタグリプチン リン酸塩水和物 グラクティブ ジャヌビア 12 24 12.5、25、50、100 12.5-100 ビルダグリプチン エクア 2.4 12-24 50 50-100 アログリプチン 安息香酸塩 ネシーナ 17 24 6.25、12.5、25 6.25-25 リナグリプチン トラゼンタ 105 24 5 5 テネリグリプチン 臭化水素酸塩水和物 テネリア 24.2 24 20 20-40 アナグリプチン スイニー 2 12-24 100 100-400 7 24 2.5、5 2.5-5 サキサグリプチン水和物 オングリザ (『糖尿病治療ガイド 2014-2015』日本糖尿病学会編・著、文光堂より一部改変) GLP-1 受容体作動薬の種類 一般名 主な商品名 リラグルチド ビクトーザ皮下注 (遺伝子組換え) エキセナチド バイエッタ皮下注 エキセナチド ビデュリオン皮下注用 (持続性注射剤) リキシセナチド リキスミア皮下注 血中半減期(時間) 作用時間 (時間) 1 筒中の 含有量 1 日の使用量 13-15 > 24 18 mg 0.3-0.9 mg 1.4(5μg)、1.3(10μg) 8 300 μg 10-20 μg - - 2.6 mg 2mg を週 1 回 2.12(10μg)、2.45(20μg) 15 300 μg 10-20 μg (『糖尿病治療ガイド 2014-2015』日本糖尿病学会編・著、文光堂より一部改変) DPP-4 阻害薬、GLP-1 作動薬、SGLT2 阻害薬と併用する際の Recommendation オイグルコン(ダオニール) 1.25 mg/日以下 グリミクロン 40 mg/日以下 アマリール 2 mg/日以下 4. α-グルコシダーゼ阻害薬 炭水化物は種々の消化酵素によって単糖類であるブドウ糖に分解され、腸管から血中へ吸収される。その分解の最終段階で作用する二糖類分解酵素 (α-グルコシダーゼ)の作用を阻害し、血糖の急激な上昇を抑制するのがα-グルコシダーゼ阻害薬である。前掲の分類で「食後血糖上昇抑制薬」とし たのは、積極的に血糖を「低下」させることがないためである。また最終的な糖質の吸収総量は変わらないため肥満の解消には役立たない。その作用 機序から単独ではほとんど低血糖を起こさない利点がある。「毎食直前」に投与しないと効果がない。 α-グルコシダーゼ阻害薬の種類 血中半減期 (時間) 作用時間 (時間) 1 錠中の含有量 (mg) 1 日の使用量 (mg) アカルボース グルコバイ、(同)OD - 2-3 50 100 150-300 ボグリボース ベイスン、(同)OD - 2-3 0.2 0.3 0.6-0.9 1-3 25 50 75 75-225 一般名 主な商品名 ミグリトール セイブル 2 (『糖尿病治療ガイド 2014-2015』日本糖尿病学会編・著、文光堂より一部改変) 5. ビグアナイド薬(BG 薬) 従来、乳酸アシドーシスを起こしやすい薬剤として頻用されていなかったが、1990 年代中頃から再評価され普及してきた。実際、禁忌に注意すれば乳酸 アシドーシスを起こすことはほとんどない。安全な使用のため日本糖尿病学会では『ビグアナイド薬の適正使用に関する Recommendation』を発表してい る。(http://www.jds.or.jp/modules/important/index.php?page=article&storyid=20)インスリン抵抗性改善薬に分類されるが、肝で乳酸からの糖新生を抑 制し、かつ肝および筋で糖利用を亢進させ、また消化管からの糖吸収を抑制する。また高用量ではグルカゴン作用を抑制することが近年明らかになって いる。その作用はマイルドであり、単独ではほとんど低血糖を起こさない。 なおメトホルミン塩酸塩は国際的には 1 錠 850 mg、1 日量は 2550 mg までであり、日本における用量と大きな差があったが、2010 年にメトグルコとして 「新発売」され、これのみ公式に国際的な用量にほぼ匹敵する処方が可能となった。医学的には何ら意味を認めないが、メトグルコ以外で高用量の処方 を行うと健康保険の査定対象となりうるので注意が必要である。(なお下表でメトグルコとそれ以外の血中半減期の表記が異なっているが同じ「メトホル ミン塩酸塩」である) ビグアナイド薬の種類 一般名 メトホルミン塩酸塩 ブホルミン塩酸塩 主な商品名 血中半減期 作用時間 1 錠中の含有量 1 日の使用量 (時間) (時間) (mg) (mg) グリコラン メデット 1.5-4.7 6-14 250 250-750 メトグルコ 2.9 6-14 250 500 250-2250 ジベトス ジベトン S 1.5-2.5 6-14 50 50-150 (『糖尿病治療ガイド 2014-2015』日本糖尿病学会編・著、文光堂より一部改変) 6. チアゾリジン薬 本格的なインスリン抵抗性改善薬として登場した薬剤である。脂肪細胞の分化を促進して、脂肪を蓄積した脂肪細胞が分泌するインスリン抵抗性惹起 ホルモンを減少させることにより、インスリン抵抗性を改善する。その作用機序から単独ではほとんど低血糖を起こさない利点がある。 なおチアゾリジン 薬の投与により循環血漿量の増加をきたすとされ、それによる浮腫が発現することがあるので注意を要する。また「心不全の患者及び心不全の既往の ある患者」には禁忌となっている。 さらに添付文書の『使用上の注意』には海外データで膀胱癌の発生リスクが増加するおそれがあることについての注意喚起がなされている。また骨折を 増加させる可能性も指摘されている。 チアゾリジン薬 一般名 主な商品名 ピオグリタゾン塩酸塩 アクトス、(同)OD 血中半減期 作用時間 1 錠中の含有量 1 日の使用量 (時間) (時間) (mg) (mg) 5 20 15、30 15-45 (『糖尿病治療ガイド 2014-2015』日本糖尿病学会編・著、文光堂より一部改変) 7. SGLT2 阻害薬 これまでのあらゆる糖尿病治療薬とはまったく異なる作用機序をもつ薬剤である。血糖の低下とは、血液中のブドウ糖をどこかへ移動させることである が、これまでの薬剤すべてが、その機序はそれぞれ異なるとはいえ、最終的にブドウ糖を標的臓器に取り込ませることで血糖を低下させている。言い換 えればブドウ糖は一度腸管から血中に吸収されると、エネルギーとして消費されるまで体内にとどまり続けるのである。(もちろん尿糖として一部は体外 へ排出している) SGLT2 阻害薬は腎の近位尿細管で原尿から血中へブドウ糖を再吸収する役割を果たすナトリウム・グルコース共輸送体 2(SGLT2:sodium-glucose co-transporter 2)を阻害することにより、尿中にブドウ糖を排出させ血糖を低下させる薬剤である。 これまで体重を増やしにくい、または減少させるという薬剤はいくつか知られているが、何らかの機序で食事の摂取量を減らすことによるため、ブドウ糖 が腸管から吸収されてしまえば、その後は標的臓器に取り込まれる以外の経路はない。したがって食事の摂取量が減らなければ、体重減少も起きるこ とはない。ところが SGLT2 阻害薬では吸収されたブドウ糖が体外へ排出されるため、その作用機序自体に体重減少作用が存在している。 ただ逆の見方をすれば食事療法を遵守すれば必要のない薬剤であり、使用にあたってはその点を十分に考慮すべきであろう。添付文書の『重要な基本 的注意』のなかに「お約束」のように「食事療法、運動療法を十分に行った上で…」という記載はあるが、むしろ食事療法が不十分であるが、今後も十分 実施できないであろうと思われる症例に適している。 安全な使用のため日本糖尿病学会から『SGLT2 阻害薬の適正使用に関する Recommendation』 (http://www.jds.or.jp/modules/important/index.php?page=article&storyid=48) が発表されており、低血糖予防に関してインスリンやスルフォニル尿素薬 等のインスリン分泌惹起薬と併用する場合に減量すること、高齢者への投与、脱水防止、シックデイにおける休薬、尿路・性器感染症、副作用と思われ る皮膚症状に対する注意などが記載されている。SU 薬減量に対する推奨用量についてはインクレチン関連薬と同一である。(インクレチン関連薬の項 参照) SGLT2 阻害薬の種類 一般名 イプラグリフロジン L-プロリン 主な商品名 スーグラ ダパグリフロジンプロピレングリコ フォシーガ ール水和物 ルセオグリフロジン水和物 ルセフィ トホグリフロジン水和物 デベルザ アプルウェイ カナグリフロジン水和物 カナグル エンパグリフロジン ジャディアンス 血中半減期 (時間) 作用時間 (時間) 1 錠中の含有量 (mg) 1 日の使用量 (mg) 15 24 25、50 50-100 8-12 24 5、10 5-10 11.2 24 2.5、5 2.5-5 5.4 24 20 20 10.2 24 100 100 9.88-11.7 24 10、25 10-25 (『糖尿病治療ガイド 2014-2015』日本糖尿病学会編・著、文光堂、およびインタビューフォームより一部改変) 8. 配合薬 最近、降圧薬では種々の配合薬が発売されているが、糖尿病薬でも下記のものが発売された。降圧薬と同様、服用する錠数が減ることによって服薬ア ドヒアランスの向上を期待したものであり、効果は各単剤と同様である。 配合薬 商品名 メタクト配合錠 成分 ピオグリタゾン塩酸塩 メトホルミン塩酸塩 500 LD 錠:15 HD 錠:30 グリメピリド LD 錠:1 HD 錠:3 アログリプチン安息香酸塩 グルベス配合錠 LD 錠:15 HD 錠:30 ピオグリタゾン塩酸塩 ソニアス配合錠 リオベル配合錠 1 錠中の含有(mg) ピオグリタゾン塩酸塩 25 LD 錠:15 HD 錠:30 ミチグリニドカルシウム水和物 10 ボグリボ-ス 0.2 1 日の使用量(mg) LD 錠:15/500 HD 錠:30/500 LD 錠:15/1 HD 錠:30/3 LD 錠:25/15 HD 錠:25/30 30/0.6 (『糖尿病治療ガイド 2014-2015』日本糖尿病学会編・著、文光堂より一部改変) A. 最初に処方する薬剤 前記のようにただちにインスリンが必要な症例[C.治療の原則 III.治療方法 1.急性の代謝失調があるか?~ただちにインスリンが必要か?参照]でなけ れば、最初に食事療法、運動療法(適応例のみ)で 1~3 ヵ月経過観察を行う。そこで血糖コントロール指標(HbA1c、グリコアルブミン、空腹時血糖など) が改善しなければ次の段階の治療に進む。1~3 ヵ月後に改善がみられれば、血糖コントロール指標が下げ止まるまで同じ治療を継続し、下げ止まった 時点で目標を達成していなければ、やはり次の段階の治療を開始する(以後も次の段階に進むときは、このような経過観察を行う)。 糖尿病の薬物療法では前述の通り、重症、すなわち急性の代謝失調がある場合には確実に血糖が低下するインスリンを用いて治療する。それ以外の 場合は 1 剤から開始するのが原則であり、HbA1c 値が高いからといって同時に 2 剤を開始することはまずない。 薬物療法をどの薬剤から開始するかであるが、筆者はまず単独では低血糖を起こさない薬剤から選択している。また SGLT2 阻害薬も通常は最初に使 うべき薬剤とは考えていない。そのためインスリン分泌増強薬、食後血糖上昇抑制薬、インスリン抵抗性改善薬のいずれかから選んでいる。 最近では汎用性の高い DPP-4 阻害薬が多いが、たとえば患者に対し食事に対する意識を持たせたいときにはα-グルコシダーゼ阻害薬(毎食直前投 与という点が有用)を用いたり、肥満患者はインスリン抵抗性の存在が考えられるためインスリン抵抗性改善薬を最初に開始している。 欧米では Position Statement を発表し、第一にメトホルミンを推奨しているが、ビグアナイド薬の場合は禁忌例に注意する必要がある。GLP-1 受容体作 動薬も DPP-4 阻害薬と同様に最初に使用する薬剤として使用できる。しかし注射であるため患者が受け入れてくれるか否かが問題となろう。前述のよ うにビクトーザをのぞき他剤との併用が前提となっている。 DPP-4 阻害薬 グラクティブ(ジャヌビア) エクア 50 mg 分1 100 mg 分 2(朝夕) ネシーナ 25 mg 分1 トラゼンタ 5 mg 分1 20 mg 分1 テネリア スイニー 200 mg 分 2 (朝夕) オングリザ 5 mg 分1 100 mg 分1 40 mg 分1 〔増量時〕 グラクティブ(ジャヌビア) テネリア スイニー 400 mg 分 2(朝夕) GLP-1 受容体作動薬 ビクトーザ 0.3 mg 皮下注 1 日 1 回 以後、7 日以上の間隔で 0.3 mg → 0.6 mg → 0.9 mg と増量していく。 α-グルコシダーゼ阻害薬 〔開始時〕 グルコバイ OD 150 mg 分 3(毎食直前) ベイスン OD 0.6 mg 分 3(毎食直前) セイブル 75 mg または 150 mg 分 3(毎食直前) 〔増量時〕 グルコバイ OD 300 mg 分 3(毎食直前) ベイスン OD 0.9 mg 分 3(毎食直前) セイブル 150 または 225 mg 分 3(毎食直前) α-グルコシダーゼ阻害薬は腹部症状(腹鳴、放屁など)が発現することが多いため、少 量から開始する方がよく、腹部症状の発現に注意して増量する。腹部症状の強い場合、 最初は 1 日 1 回から開始し、その後 2 回、3 回と増やしていくのも一法である。 インスリン抵抗性改善薬 〔開始時および標準用量〕 メトグルコ 250-750 mg 分 1-3(食直前または食後) ジベトス 50-150 mg 分 1-3(食後) アクトス 15-30 mg 分 1(朝食前または朝食後) (アクトスを女性に投与するときは 15 mg から開始する。) 〔高用量〕 メトグルコ 1000 mg 分 2(朝夕食直前または食後)(分 3 でも可) メトグルコ 1500 mg 分 3(毎食食直前または食後) メトグルコ 2250 mg 分 3(毎食食直前または食後) アクトス 45 mg 分 1(朝食前または朝食後) B. 2 剤目として選ぶ薬剤 「最初に処方する薬剤」の項で提示した治療で血糖コントロールが目標まで改善しない場合、目標まであとわずかであれば現在使用中の薬剤を増量し てみる。<各処方例の「増量時」や「高用量」の項参照>目標までまだ遠いのであれば作用機序の違う薬剤を併用してみる。この際も食事・運動療法の 遵守がなされているかを常にチェックしておく。前に示した「経口薬の分類」から別の系統の薬剤を選択し、原則として同系統内の併用は行わない。例外 としてビグアナイド薬とチアゾリジン薬の併用は、両者の作用点が異なることから有効であるうえ両者の配合薬も発売されている。 (a)インクレチン関連薬を単独で使用している場合 肥満例であれば「インスリン分泌惹起薬」以外から選択するとよい。とくに「インスリン抵抗性改善薬」、その中でもビグアナイド薬は相乗的な効果が期待 できる。また空腹時血糖値が 150 mg/dL 以下であればα-グルコシダーゼ阻害薬によって食後血糖の上昇を抑制することも有効である。 <処方例は「最初に処方する薬剤」の項参照> 肥満例で食事療法の遵守がいまひとつと考えられるが、かといってこれ以上の改善が困難と思われる場合、年齢、腎機能などが適合すれば SGLT2 阻 害薬を検討してもよい。 非肥満例でもインスリン抵抗性改善薬やα-グルコシダーゼ阻害薬の併用をまず検討すればよいが、特にやせが強い場合はインスリン分泌が低下して いる可能性もあるので「インスリン分泌惹起薬」を選択肢に加える。低血糖を避けるためにはグリニド薬が有利である。スルフォニル尿素薬を使用する場 合は少量から開始することが重要である。増量するときも日本糖尿病学会が示した recommendation を参照し、低血糖の予防につとめる。空腹時血糖 が 200 mg/dL を越える場合はグリニド薬よりもスルフォニル尿素薬を選択することが多いが、グリニド薬で食後のブドウ糖毒性を解除するのもよい。 SGLT2 阻害薬 スーグラ 50 mg 分 1(朝食前または朝食後) フォシーガ 5 mg 分 1 ルセフィ 2.5 mg 分 1(朝食前または朝食後) アプルウェイ(デベルザ) 20 mg 分 1(朝食前または朝食後) カナグル 100 mg 分 1(朝食前または朝食後) ジャディアンス 10 mg 分 1(朝食前または朝食後) グリニド薬 ファスティック(スターシス) 270-360 mg 分 3(毎食直前) グルファスト 15-30 mg 分 3(毎食直前) シュアポスト 0.75-1.5 mg 分 3(毎食直前) スルフォニル尿素薬 オイグルコン(ダオニール) 1.25 mg 分 1(朝食前または朝食後) グリミクロン HA 20 mg 分 1(朝食前または朝食後) アマリール 0.5 mg 分 1(朝食前または朝食後) (b)α-グルコシダーゼ阻害薬を単独で使用している場合 前項と同様に肥満例であれば「インスリン分泌惹起薬」以外から選択するとよい。特に DPP-4 阻害薬は、α-グルコシダーゼ阻害薬がインクレチンのう ち GIP より GLP-1 を増強する効果があることから相乗的な効果が期待できる。もちろん「インスリン抵抗性改善薬」の併用も有効である。 <処方例は「最初に処方する薬剤」の項参照> 肥満例で食事療法の遵守が今ひとつと考えられる場合は、前項同様 SGLT2 阻害薬を検討してもよい。 非肥満例でも前述の肥満例と同様でかまわないが、特にやせが強い場合はインスリン分泌が低下している可能性もあるので「インスリン分泌惹起薬」を 選択肢に加える。その際、毎食直前という用法が同一のグリニド薬が併用しやすく、両者の合剤も発売されている。空腹時血糖が 200 mg/dL を越える 場合はスルフォニル尿素薬も検討する。前項同様少量から開始することが重要である。 <処方例は「インクレチン関連薬を単独で使用している場合」の項参照> (c)インスリン抵抗性改善薬を単独で使用している場合 ここでも肥満例であれば「インスリン分泌惹起薬」以外から選択するとよい。前述したようにビグアナイド薬とチアゾリジン薬の併用は可能である。またビ グアナイド薬と DPP-4 阻害薬の併用は相乗的な効果が期待できる。 <処方例は「最初に処方する薬剤」の項参照> もちろん GLP-1 受容体作動薬の併用も有効である。ビグアナイド薬かチアゾリジン薬との併用であればビクトーザだけでなく、週 1 回注射のビデュリオ ンの併用も可能である。 肥満例でも食事療法の遵守が今ひとつと考えられる場合は、やはり SGLT2 阻害薬を検討してもよい。 非肥満例でも前述の肥満例と同様でかまわないが、やせが強い場合には「インスリン分泌惹起薬」を選択肢に加える。その際、毎食直前という用法が同 一のグリニド薬が併用しやすく、両者の合剤も発売されている。空腹時血糖が 200 mg/dL を越える場合はスルフォニル尿素薬を選択する。前項同様少 量から開始することが重要である。 <処方例は「インクレチン関連薬を単独で使用している場合」の項参照> GLP-1 受容体作動薬 ビデュリオン 2.0 mg 皮下注 週 1 回 C. 3 剤目として選ぶ薬剤 これまで検討した薬剤の組み合わせ 〔インクレチン関連薬〕 + ビグアナイド薬 or チアゾリジン薬 or α-グルコシダーゼ阻害薬 or SGLT2 阻害薬 or グリニド薬 or スルフォニル尿素薬 〔α-グルコシダーゼ阻害薬〕 + ビグアナイド薬 or チアゾリジン薬 or SGLT2 阻害薬 or グリニド薬 or スルフォニル尿素薬 〔ビグアナイド薬〕 + チアゾリジン薬 〔チアゾリジン薬〕 + SGLT2 阻害薬 *) **) or SGLT2 阻害薬 or グリニド薬 or スルフォニル尿素薬 or グリニド薬 or スルフォニル尿素薬 *) **) ***) *) **) バイエッタ使用可、**) ビデュリオン使用可、***) リキスミア使用可 それぞれの組み合わせで、まだ使用していない系統の薬剤を併用する。筆者は肥満者にはインスリン分泌惹起薬をできるだけ避けることが多い。 GLP-1 受容体作動薬を追加する場合、ビクト-ザだけでなく、上記の *) ではバイエッタが、**)ではビデュリオンが、***) ではリキスミアが使用できる。 これはあくまで健康保険上の査定を避けるためだけであり、こういった使い分けに医学的な必然性がある訳ではない。 GLP-1 受容体作動薬 バイエッタ 5 μg 皮下注 1 日 2 回 朝夕食前 (1 ヵ月以上の経過観察後、必要に応じて 1 回 10 μg へ増量可) リキスミア 10 μg 皮下注 1 日 1 回 朝食前 (以後、7 日以上の間隔で 10 μg → 15 μg → 20 μg と増量していく) (効果が十分なら 20 μg まで増量しなくてもよい) D. 3 剤を併用しても治療目標が達成できない場合 食事・運動療法を遵守し、経口薬を 3 種以上併用しても目標の血糖コントロールを達成できない場合は、インスリンの追加あるいは変更を考える。スル フォニル尿素薬の二次無効と考えられるときも同様である。 最近、持効型インスリンに経口薬を併用した basal support oral therapy(BOT 療法)が広く行われている。 しかし食事療法が確実に遵守されているとは考えられない症例も多く、もう一度栄養指導を行うことや、短期間でも適切な食事療法を体験してもらうため の入院を検討してよい。 インスリンも入院も受け入れられない場合には、4 剤併用を行うこともある。現在、経口薬だけでの併用を考えると、インクレチン関連薬、α-グルコシダ ーゼ阻害薬、ビグアナイド薬、チアゾリジン薬、SGLT2 阻害薬、インスリン分泌惹起薬の 6 系統の併用が最大であるが、筆者にはまだ実際に 6 剤を併 用した経験はない。 E. 予測される合併症のある場合 前記のように糖尿病の合併症は“point of no return”を超えていなければ、血糖コントロールの改善により発症・進展を阻止できるが、治療の際は以下 の点に注意する。 (a) 糖尿病網膜症 一般に急激な血糖値の改善が網膜症を増悪させると言われているが、どの程度「急激に」改善すると悪化するかは議論の分かれるところであるし、自然 経過で悪化した症例との区別もつかない。筆者らは「前増殖網膜症以上の症例では毎食前血糖を 140 mg/dL 以下にしない程度とし、低血糖は絶対起 こさせない」を目標としている。ただ網膜症の増悪を理由に血糖コントロールを悪いまま放置することだけは避けなければならない。 (b) 糖尿病腎症 良好な血糖コントロールの維持以外に、血圧の管理(前述)や蛋白制限食(0.8 g/kg 体重以下)が進行を抑制する。血圧管理にはアンジオテンシン変換 酵素阻害薬(ACE 阻害薬)やアンジオテンシン II 受容体拮抗薬(ARB)が腎症の進行を抑制する観点で有用とされている。 (c) 糖尿病神経障害 高血糖が長期間続いていた症例では、急激な血糖コントロールの改善により一時的に疼痛が増悪することがあり、これを治療後神経障害(post treatment neuropathy)と呼ぶ。とくに多量飲酒者によく見られる。これは良好な血糖コントロールを維持することで消失するが、充分な疼痛対策をとらな いと治療中断につながる。これは飲酒によって疼痛が軽減する例があるためだが、もちろん本質的な治療につながらず、最終的により悪化してしまう。 神経障害に対しては、アルドース還元酵素阻害薬のエパルレスタット(キネダック)や同様の作用をもつ漢方薬の牛車腎気丸がしばしば用いられる。疼 痛があるときにはプレガバリン(リリカ)、デュロキセチン塩酸塩(サインバルタ)、メキシレチン塩酸塩(メキシチール)、カルバマゼピン(テグレトール)ある いは三環系抗うつ薬を併用する(ただしカルバマゼピンと三環系抗うつ薬の添付文書の「効能・効果」には「糖尿病神経障害の疼痛」の記載はない)。 また「こむらがえり」には漢方薬の芍薬甘草湯が比較的即効性もあり有効である。 (d)動脈硬化症 血糖コントロールが比較的良好な症例でも糖尿病患者では進展が早いため、肥満、脂質異常症、高血圧、喫煙などの危険因子を解消する。 添付文書の効能・効果欄における薬剤併用について 経口薬の添付文書をみると「効能・効果」欄に「糖尿病」と記載されているのはα-グルコシダーゼ阻害薬のみであり、オイグルコン、グリミクロン、ジベト スは「インスリン非依存型糖尿病」、それ以外の薬剤は「2 型糖尿病」となっている。したがって添付文書上で 1 型糖尿病に使用できるのはα-グルコシ ダーゼ阻害薬のみである。 最近、多くの薬剤で「効能・効果」欄が単に「2 型糖尿病」のみの記載となってきたが、一部の薬剤については併用薬について記載されているものがある ため、主要な薬剤について参考までに表にまとめてみた。 「記載のない薬剤との併用はできない」という厳密な適用をすると併用の範囲はかなり狭まってしまい、実際の運用とかけ離れたものになってしまうが、 少なくともどちらかの薬剤で併用可能と考えられる記載があれば問題ないようだ。 (もし双方に記載が必要なら SU 薬は一切併用ができなくなってしまう。) また「併用注意(併用に注意すること)」の項にはインスリンを含むすべての糖尿病薬が掲げられていることから、併用可能という判断も一般常識の範囲 内で考えれば可能であろう。どちらをとるべきか筆者が検索した範囲では明確に記載された公式文書は見つからなかった。 注射剤である GLP-1 受容体作動薬はビクトーザが「2 型糖尿病」である以外は、他の経口薬との併用が条件となっていて、単独での使用についての記 載がない。 いずれの薬剤にも「食事療法・運動療法を行っている患者で十分な効果が得られない場合」との記載がついている。 なおグルコバイ、ベイスンの記載は経口糖尿病薬またはインスリンとなっているが、同系統同士の併用は意味がないことは明らかである。 2015 年 4 月現在 SU ダオニール - グリミクロン - アマリール - ファスティック グリニド α-GI BG TZD - ○ ○ ○ DPP-4 GLP-1 INS グルコバイ ○ ○ - ○ ○ ○ ○ ベイスン ○ ○ - ○ ○ ○ ○ セイブル ○ - ○ メトグルコ ○ アクトス ○ ○ ○ - スイニー ○ ○ ○ ○ バイエッタ*1 ○ (○) (○) - ビデュリオン*2 ○ ○ ○ - リキスミア*3 ○ (○) ○ - ○ - - ○ ○:「効能・効果」欄に記載あり、(○):SU との併用が必要、-:同系統の薬剤 *1 バイエッタは SU 単独、SU+BG、SU+TZD に追加 *2 ビデュリオンは SU、BG、TZD の単独または併用に追加 *3 リキスミアは SU 単独、SU+BG、INS 単独(ただし持効型溶解インスリンまたは中間型インスリンのみ)、SU+INS に追加 SU:スルフォニル尿素薬、グリニド:速効型インスリン分泌促進薬 α-GI:α-グルコシダーゼ阻害薬、BG:ビグアナイド薬、TZD:チアゾリジン薬 DPP-4:DPP-4 阻害薬、GLP-1:GLP-1 受容体作動薬、INS:インスリン