集中治療室に入室するがん患者の看護

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集中治療室に入室するがん患者の看護
集中治療室に入室するがん患者の看護
<総
説>
集中治療室に入室するがん患者の看護:国内文献を通しての考察
Nursing for cancer patients in intensive care unit: a review of the literature
木下
里美1)
Satomi Kinoshita
博子2)
田中
Hiroko Tanaka
キーワード:がん患者、集中治療室、がん看護
そこで、今回、集中治療を受けるがん患者の看護の視点
Ⅰ.はじめに
や特徴を見出すため、集中治療を受けるがん患者の看護に
対し、研究的な取り組みがどのようにされているのかを概
がん患者が集中治療室(Intensive Care Unit 以下ICU)に
観し分析することとした。
入室するケースには、侵襲の大きな手術後、手術後合併
症、化学療法後合併症、放射線治療後合併症、がんの進展
Ⅱ.ICU看護におけるがん看護の位置づけ
に伴う合併症、がんの治療経過中に新たに発生した急性疾
1)
患、慢性疾患の急性増悪がある 。がん治療が進歩し集中治
文献検討に先立って、ICU看護において、がん看護が、
療を必要とする患者はいるが、がん患者の集中治療につい
元々どのように位置づけられているかを明らかにするた
1)2)
て調査した研究は少ない 。ICUに入室するがん患者の割合
め、ICU看護とがん看護の定義と概念について整理を行っ
は、施設により異なるが、一般市民への調査では、ICUなど
た。
の集中治療部門で死亡した患者387名中152名はがん患者
3)
日本でのICUの設置は、1964年順天堂大学附属病院が初
11)
11)
で、約40%を占めていた 。また、ICU患者の体験を調査し
であり、1973年日本麻酔科学会がICU設置基準を発表 し
た研究では40名のうち 9 名が食道腫瘍 であり、ICUに入室
た。そこでのICUの定義は、内科系・外科系を問わず呼吸、
する患者の一定数を、がん患者が占めていると言える。集
循環、代謝、そのほかの重篤な急性機能不全の患者を収容
中治療を受ける患者は、生命を脅かす健康問題のリスクが
し、強力かつ集中的に治療看護を行うこと により、その効
4)
5,6)
12)
高いことから 、回復するための集中的な看護が必要とさ
果を期待する部門とされている。日本集中治療医学会は
れる。また、患者は自分の生命の危機を感じることで、心
1974年に設立され 、翌年から、医師のみでなく看護師の参
理的に衝撃を受けるため、患者や家族の心理的危機状態に
加が認められ、1996年には独自の会則をもつ看護部会が発
対する看護介入も重要である 。一方、2006年にがん対策基
7)
足した 。ICU看護の目的は、主に重症患者の回復を目的に
本法が成立してから、がん看護の専門性が今まで以上に求
集中的で濃厚に診療の補助と看護を行うことである。ICU看
められるようになり、他の疾患を持つ患者とは異なるがん
護のテキストから教育概要を抽出した結果、呼吸管理、循
看護の視点が必要とされている。がん患者には、がんの進
環管理、代謝管理といった身体機能別看護、疾患別看護、
行や治療の影響による身体の変化、それに伴う症状に対す
処置や医療機器の取り扱いで構成されていた
る看護に加え、がんと知った人の受ける衝撃や予後の不安
患者が重症で生命危機状態であることや、ICUの特殊な環境
に対する心理的な支援も必要である
8-10)
。
11)
13)
5,6,14,15)
。また、
が患者・家族に与える影響を踏まえた、心理社会的支援が
このように、がん看護の専門性が求められる中、集中治
記載されていた。しかし、これらは、ICUに入室する患者す
療を受けるがん患者の看護にも、がん以外の疾患をもつ患
べてに共通する看護であり、がん患者の看護に特徴的な記
者と違った看護の視点が必要なのではないかと考えた。例
載はなかった。
えば、がん患者が集中治療を受けることになった場合、が
がんに関する学術講演会は、癌研究会創立時の明治41年
んと知ったことの衝撃と集中治療室に入室することの恐怖
(1908年)4 月 2 日に癌研究会が主催した第 1 回学術集談会
や不安、重症感が加わることにより、回復に何らかの影響
が始まりで、昭和16年(1941年)4 月 5 日に日本癌学会が創
があると考える。
設された 。がん看護が認識されるようになったのは、1962
16)
受付:2014年 9 月 9 日
受理:2015年 1 月16日
1)関東学院大学 看護学部看護学科
2)創価大学 看護学部
Kanto Gakuin University Journal of Nursing Vol.2, No.1, pp.47-53, 2015 47
集中治療室に入室するがん患者の看護
17)
年に国立がんセンター設立の時点と言われている 。1970年
(ISSN)がない18件、新生児集中治療室(NICU)2 件、
代のがん医療・看護の焦点は疼痛緩和、症状コントロー
ICUでの研究ではない12件、ICU看護師を対象とした研究 6
ル、生存率の上昇、治癒、生活の質(Quality of life
件、がん患者か家族の研究ではない11件であった。
以下
QOL)であった。1981年以降、がんが死亡原因の第1位とな
2.分類・分析方法
り、次第にがん患者は在宅医療から医療機関に集中するよ
分析の対象とした文献について、①対象者の区別を患者
うになった。そして、看護師は急性期にあるがん患者と終
と家族とに分類をした。②ICU入室目的の区別を、術後の回
17)
末期にあるがん患者の看護に追われるようになった と言わ
復目的と重症患者の回復目的で分類した。③研究方法と内
れている。がん看護に関わる実践、教育、研究の発展のた
容別に分類した。④対象の患者の疾患名を分類した。
18)19)
、平成18年
また、
「ICU」と「看護」をキーワードにした過去5年間の
(2006年)がん対策基本法が成立し、更にがん看護の専門性が
原著論文816件を概観すると、呼吸器管理に関連する看護、
求められるようになった。がん看護のテキスト等を概観す
せん妄患者の看護、早期離床やリハビリテーション、褥瘡
ると、集学的治療(手術療法・化学療法・放射線療法)に
予防、終末期ケア、安楽やリラクゼーション、ICU入室患者
応じた看護、各症状別看護、疾患別看護、患者への心理社
の体験、家族支援が主であった。その中で特に、呼吸器管
め、1987年に日本がん看護学会が設立され
20)
会的支援、家族支援が記載されている 。治療場所別看護に
理、せん妄患者の看護、家族支援に関する研究が多くを占
ついては、がん患者の療養支援において、一般病棟、回復
めていたため、これらを軸にして考察を行うこととした。
期リハビリテーション病棟、療養病棟、緩和ケア病棟の記
3.結果
載はある が、ICUに関する記載はされていなかった。ま
分類した結果を、表 1 に記載した。
た、がん看護のコアカリキュラムでは、オンコロジーエ
なお、文献で「癌」の記載がされているものについて
マージェンシーの内容に、播種性血管内凝固(DIC)や敗血
は、そのまま「癌」の用語を使用し、それ以外は「がん」
症、頭蓋内圧亢進や心タンポナーデなど、ICUで主に扱われ
の記載で統一をした。
20)
21)
る病態が含まれていた 。しかしながら、これらの記載の中
に、ICUに入室するがん患者の看護の特徴は記載されていな
かった。
1)患者を対象にした研究
術後の回復目的が9件、重症者の回復を目的としたものが
3 件であった。疾患別で最も多かったのが食道がんの術後で
6 件であり、他の疾患は 1 件ずつであった。
Ⅲ.ICUにおけるがん患者の看護に関する研究の動向
術後の研究で最も多かったのは、人工呼吸器装着患者の
呼吸器合併症予防や人工呼吸器離脱に関するもの 5 件であっ
1.対象文献の選定
がんは、日本において死亡原因の 1 位であることや、がん
た。内 2 件は口腔ケアにより、人工呼吸器関連肺炎の予防に
関する内容であり 2 件とも食道がん患者を対象としたもので
22)23)
。いずれも、口腔ケア後の細菌数から効果を検証
対策基本方法の成立から、がん看護の専門性が強調される
あった
ようになったという社会的背景があり、海外での状況とは
した内容である。1 件は、食道がんの術式から術後の肺炎の
異なると考えた。そこで、本研究で対象とする文献は日本
危険性に言及し、化学療法の有無や術式の影響による結果
国内のICUに入室したがん患者の看護に関するものに限定し
の違いについて述べているが
た。
患者を対象とした理由や考察の記載はなかった。
22)
が、1 件については食道がん
検索は、書誌情報データベースの医学中央雑誌を用い
術後の早期離床や体位変換により呼吸器合併症の予防や
た。現代の、ICU看護におけるがん看護の視点を明らかにす
改善を目的とした研究では、食道がん患者が術式の特徴か
るため、「ICU」または「集中治療室」と「がん」を組み合
ら呼吸器合併症を起こしやすいことに着目した研究 、胃が
24)
わせた過去 5 年間の看護の原著論文を検索した。しかしなが
ん術後のイレウス解除術後に、胸腔内に便汁様の膿が漏れ
ら、該当文献が少なく、分析するには不十分であると判断
たことによる膿胸患者の無気肺改善を目的とした研究 が
し、年代をさかのぼって検索を行った。研究者 2 名で、ヒッ
あった。また、肺移植術後患者の人工呼吸器離脱が進まな
トした全ての年度の文献の抄録を概観した結果、2000年以
い理由として精神的要因、ICUでの環境の特徴に着目し考察
降の文献で、研究の傾向を把握できると判断し、2000年以
した研究 があった。
降の文献を分析の対象とした。
結果、ICUと「がん」で61件、集中治療室と「がん」で13
25)
26)
術後のせん妄予防に関する研究は、2 件とも食道がん術後
患者を対象としたものであった。2 件とも食道がん手術の侵
27)28)
を理由に
件、重複を除くと合計66文献であった。国際標準逐次刊行
襲の大きさからせん妄発症のリスクが高いこと
物番号(ISSN)の記載がない施設での集録集を除き、がん
挙げ、実際にせん妄を発症した患者の看護について報告し
患者やその家族の看護に関する内容が含まれる文献を選定
ていた研究27)と、せん妄症状発現と夜間の睡眠覚醒状態、
した。選定は研究者 2 名で行い、最終的に17文献を分析の対
尿中プロスタグランディンE2の排泄量のパターンとの関係
象とした。
を明らかにした研究 があった。午前中の補光が回復過程に
なお、削除した文献は、国際標準逐次刊行物番号
48 関東学院大学看護学雑誌 Vol.2, No.1, pp.47-53, 2015
28)
どのように影響するかを検討した研究では、せん妄予防を
集中治療室に入室するがん患者の看護
目的とした研究を発端としており、補光を行った患者は行
2)家族
わなかった患者にくらべ、歩行開始日が早く回復を早める
がん患者の家族支援に関する研究では、術後のがん患者
の家族 3 件、重症患者の家族 2 件であった。
29)
可能性を示唆していた 。
脳腫瘍術後にICUに入室した患者との関わりでは、患者と
術後ICU入室になったがん患者家族の満足度の調査では、
のプロセスレコードから実施されたケアの抽出を行ってい
患者が、がんであることと手術をすることで、家族の心理
30)
34)
る が、がん患者であることに着眼したケア内容の記載はな
的危機状態が高まる可能性に着目している が、アンケート
かった。
は一般的な術後の対応とICUでの環境に関する内容になって
重症患者の研究では、予後 1 年の悪性神経膠腫患者が、
いた。また、肺がん術後患者の家族の心理と面会に対する
呼吸状態の悪化でICU入室になり、積極的治療を行いなが
ニーズを調査した研究 でも、術後にICUに入室したことに
31)
35)
ら、QOLを重視したケアを実施した報告 があった。緊急入
着目した調査内容と考察であり、がん患者の家族であるこ
院になった気管癌患者の心理的危機状態について報告した
とに関する記載はなかった。がんの手術後にICUに入室した
研究では、癌の告知と予後に対する心理的危機状態、ICUに
患者の家族が必要としている情報について調査した研究 で
32)
36)
入室による心理的影響を考察している事例 があった。ま
も、手術に関連する情報についての記載はあるが、がんに
た、呼吸状態の悪化により、気管切開後にICUに入室した患
関する情報の記載はなかった。
33)
者に対し、希望を見出す看護を報告している研究 があった
急性リンパ性白血病患者の家族の代理意思決定に関する
が、この研究では、がん患者であることに視点を置いた考
事例研究 では、臍帯血移植後に全身状態が悪化し、ICUに
察の記載はなかった。
入室した患者の延命処置に関する意思決定について、看護
37)
表 1.ICU に入室したがん患者家族への看護の研究
表1.ICUに入室したがん患者家族への看護の研究
ICU入室目的
研究対象
(N=17)
研究テーマ
研究方法
疾患名
研究内容
量的研究
食道がん
①食道がん患者の口腔ケアに使用する洗浄液について、化学療法の有
無、術式の影響を加味し検討
②人工呼吸器装着患者のオーラルケアのスタンダード化 事例研究
食道がん
②食道がん患者のプラーク残存が少ない口腔ケア方法を検討。
③ICUにおける食道癌術後の呼吸器合併症に対する早期
事例研究
離床の効果
食道がん
③食道がん術後に両側声帯麻痺が出現した患者の呼吸器合併症に対
する早期離床の効果を検討。
④人工呼吸器管理中の無気肺患者への腹臥位の効果
腹臥位を試み,無気肺が改善した一症例
事例研究
胃がん
④胃がん術後イレウス解除術後の、膿胸患者の無気肺改善ケアの報
告。
⑤脳死肺移植術後患者の人工呼吸器離脱を困難とした
精神的要因
事例研究
リンパ管平骨 ⑤肺移植後患者の人工呼吸器離脱を困難とした要因を環境的側面、精
筋腫
神的要因から検討。
⑥食道がん術後せん妄の発症要因の分析
事例研究
食道がん
⑥食道がん術後にせん妄を発症した症例を振り返り、術後せん妄の発
症状況とその要因を検討。
⑦食道がん術後患者におけるせん妄症状・睡眠・尿中
PGE2排泄パターンの関係
量的研究
食道がん
⑦食道がん患者の術後せん妄症状の発現,睡眠覚醒パターンおよび夜
間尿中プロスタグランジン(prostaglandin:PG)排泄量の関係を検討。
術後の生体の回復過程 1件
⑧食道癌術後患者に対する午前中の補光と直腸温変動・
量的研究
回復過程との関連性
食道がん
⑧食道がん患者の午前中の補光と直腸温変動・回復過程との関連性を
検討
患者への関わり 1件
⑨手術直後にICUに入室した患者と看護婦の関わりの分
質的研究
析
脳腫瘍
⑨脳腫瘍患者と看護師とのプロセスレコードから、ICUにおける重症患者
との関わりを検討。
複雑な重症事例・チーム医療実践 1件
⑩悪性神経膠腫患者のQOL維持に取り組んだケアの一
事例研究
事例 急激な症状悪化をたどった患者と行ったチーム医療
悪性神経膠 ⑩悪性神経膠腫で急激な症状悪化をたどった患者へのチーム医療実践
の報告。
腫
⑪気管癌で緊急入院・手術を受けた患者への援助 生
命・喪失の危機に対する段階別援助が役立った一事例
気管癌
①食道がん術後患者の口腔ケアによる細菌学的変化
人工呼吸器装着患者の呼吸器合併症予防・
離脱に関するもの 5件
術後の回復 9件
術後せん妄予防 2件
患者 12件
重症患者の回復 3件
事例研究
⑪気管癌により生命・喪失の危機にある患者対するフィンク危機理論を
用いた援助の報告。
重症患者への心理的ケア 2件
術後 3件
膵頭部ガスト ⑫誤嚥性肺炎を併発した膵頭部ガストリノーマ患者に対し、モースの「病
リノーマ
気体験の理論」を用い実践した心理的看護介入の報告。
⑬対応改善後のICU入室患者家族の満足度
がんセンター ⑬ICUに入室した術後がん患者の家族に対する家族対応を満足度にて
患者
評価。
量的研究
⑭ICU・HCUにおける手術終了後の面会方法と看護介入
術直後の家族の面会方法と看護介入の検討
について考える 面会に対する家族ニーズの実態調査か 量的研究
3件
ら
家族 5件
重症 2件
⑫ICUに緊急入室した気管切開後の患者が希望を見出す
事例研究
ための看護介入 モースの「病気体験の理論」を用いて
肺がん
⑭肺がん患者家族を対象としたICU・HCUにおける手術終了後の面会方
法と看護介入を検討。
⑮手術を終えたがん患者の家族が求める看護援助につい
量的研究
て
がんセンター ⑮手術直後のがん患者家族が必要としている情報、看護師に望むサ
患者
ポートを検討。
⑯ICUにおける家族の代理意思決定にかかわる看護師の
事例研究
役割 トンプソンのモデルを用いての振り返り
急性リンパ性 ⑯トンプソンの「看護倫理のための意思決定における10のステップ」を用
白血病
いICUに入室した患者の母親の意思決定の分析報告。
⑰急遽ICUに入室したがん患者の治療方針について意志
決定を迫られた家族の体験 人工呼吸器装着の代理決 事例研究
定を行った母親との面接を通して
血液疾患
代理意思決定への支援 2件
⑰急変によりICUに入室したがん患者家族の意思決定に関する看護の
あり方を考察。
Kanto Gakuin University Journal of Nursing Vol.2, No.1, pp.47-53, 2015 49
集中治療室に入室するがん患者の看護
師の役割を考察している。がん患者の人工呼吸器装着に関
38)
41)
つことが記述されている ものの、この意欲が、がんに打ち
する家族の意思決定についての報告 では、これまでの研究
勝つための患者の意欲であるかどうかの考察はなかった。
で、がん患者の急変に関する研究がされていないことに焦
今回、分析の対象となった人工呼吸器装着患者の呼吸器合
点を置いており、がんと診断を受けた時から悲嘆を経験し
併症予防や離脱に関する研究でも、がんの術式に関する身
ている家族は、急変がより現実的な死を実感させる出来事
体的要因には着目がされているが、精神面についてはがん
であることを考察していた。
患者であることの視点はなかった。以上のことを踏まえる
と、人工呼吸器装着患者の看護は、術式の違いや、人工呼
Ⅳ.考
察
吸器装着による心理的影響に着目がされ、がんであること
での影響については、考慮はされていないと考えられた。
国内のICUに入室したがん患者の看護に関する研究を概観
した結果、がん患者の特徴に言及した研究はわずかであっ
2.ICUでのせん妄予防
今回、分析の対象となった17文献のうち、術後せん妄予
た。抽出された文献から、以下が明らかになった。
防とそれに関連する研究は 3 件であり、いずれも食道がん患
1)報告されている論文数は、術後の回復目的で入室した患
者を対象としていた。術後せん妄の発生要因や看護に関す
者を対象とした研究が多く、重症者の回復を目的とした患
る研究はさまざまな対象からなされており、ICUでは高齢の
者を対象とした研究は少なかった。また、疾患別では食道
術後患者 、循環器疾患術後
がん術後患者を対象とした研究、機能別では人工呼吸器管
れている。せん妄は、器質的原因のほかに、なんらかの危
理に関するものが多かった。
険因子が要因となり発生すると言われ、術後せん妄の発生
2)家族を対象とした研究の中で、がん患者の家族であるこ
要因に関する報告では、手術侵襲、脳血管障害の既往、術
とに視点を置いた研究では、がんと診断された時からの家
後ICUへの入室、手術時間、高齢者、開胸手術、精神的スト
族の心理状態に着目していた。
レス等が報告されている
3)がん患者に対するがん看護への視点は、食道がん患者で
がん患者は、がんという疾患の受け止めと同時に、ICUに入
は手術の侵襲の大きさに言及し、重症患者の研究ではがん
室することによる重症感を抱きやすいと推測され、不安も
と診断を受けた時からの悲嘆に着目していた。
大きいと考える。従って、心理的負担を抱えICUに入室する
以下、ICUにおける看護研究の中で、がん患者に対する看
42)
45,46)
43,44)
を対象とした研究が報告さ
。術後に集中治療を必要とする
がん患者は、それがせん妄の要因の 1 つである心理的要因と
護の視点について考察を行う。
なる可能性があると考える。今回、分析の対象となった文
1.ICUでの呼吸器管理に関する看護
献は、食道がんの手術侵襲の大きさにはふれられている
今回分析の対象とした17文献のうち、ICUに入室したがん
が、がんという疾患を持った人への考察はみられなかっ
患者の呼吸器管理に関連した研究は 6 件あり、食道がん患者
た。近年では、予定手術の場合、手術室看護師による術前
を対象とするものが多かった。食道がん患者は、術後のICU
訪問や、ICU看護師の入室前オリエンテーション等、治療や
入室期間が他の術後がん患者に比べ長くなることや、術式
治療の場の変化から生じる不安をできるだけ緩和するよう
によっては頚部の安静のため、ベッド上の活動が制限され
な介入 がされている。これらを活用して、疾患に対する受
ることで呼吸器合併症のリスクが高いこと、開胸を伴う
け止めに加え、せん妄の要因の分析、看護援助の研究も必
ケースがあること、術後人工呼吸器管理が必要になること
要ではないかと考える。
などが理由に考えらえる。
3.家族支援
42)
ICUでの呼吸器管理に関する最近の研究では、呼吸器疾患
今回の文献検討の結果、家族支援に関する文献は17件中5
患者を対象とし非侵襲的陽圧換気療法の継続に関する看護
件であった。これまでの、ICUに入室する患者家族の研究で
39)
師の臨床判断 や、人工呼吸器装着患者とのコミュニケー
40)
ションの困難 、人工呼吸器を装着した術後患者の回復を促
41)
は、重症患者の家族という視点が多く
7,47-51)
されているもの
が多く、疾患の特徴による違いについては明らかにはされ
すための援助がある 。1 件目の研究には、がん患者は対象
ていない。急性心筋梗塞や急性心不全、大動脈解離などの
に含まれていないが、後述の 2 件については、食道がん患
循環器疾患をもつ患者の家族に対する研究では、緊急の処
者、胃がん患者、舌腫瘍患者が対象に含まれている。しか
置が多く、急変のリスクにともなう家族の精神的苦痛52)が
し、この人工呼吸器装着患者とのコミュニケーションの困
報告されている。また、心臓血管系の疾患で緊急手術が目
難についての研究では疾患による違いは考察されていな
的で入室した患者の家族を対象とした研究では、家族の希
い。また、人工呼吸器を装着した術後患者の回復を促すた
望する看護師への関わり方について報告がされている 。以
めの援助については、すべてが、がん患者を対象としてい
上の様な心臓血管系の疾患は、死に直結する臓器であるこ
るが、侵襲の大きな術後の身体変化と集中治療に伴う苦痛
とや緊急でICUに入室するケースがあることから、患者だけ
をどのように乗り越えるかに着目をしており、がん看護を
でなく家族の動揺は計り知れず、家族支援について必要性
意識した記述はされていなかった。患者は「病気との闘い」
を認識しやすいことが研究として取り組まれている理由の 1
「病気に打ち勝つ」といった回復意欲に関する気持ちを持
つであると考える。今回、分析した文献の中で、術後の患
50 関東学院大学看護学雑誌 Vol.2, No.1, pp.47-53, 2015
53)
集中治療室に入室するがん患者の看護
者の家族支援については、がん看護であることに言及され
れたときからの患者家族への影響を踏まえ、ICU入室後の支
ていなかったが、重症患者については、がんという死をイ
援を検討していくことが必要である。
メージする病気と、実際に重症になった時に悲観しやすい
家族の心理状態に着目していることが明らかになった。ICU
Ⅶ.引用文献
に入室する重症患者でも、心疾患のように突然の発症によ
り入室するケースと、がん患者のように長期療養後の病状
1) 河崎純忠,阿部伊知郎(2007)
.集中治療室に入室した
悪化でICUに入室するケースでは、家族のニーズも異なる可
がん患者の転帰と予後,日本集中治療医学会雑誌,
能性もあり、非がん疾患患者の家族と違ったニーズを明ら
14,299-307.
かにしていく必要があると考える。
2) 本田完(2007)
.がん重症患者に対する集中治療,日本
4.ICUに入室する患者の体験と看護
集中治療医学会雑誌,14,623-624.
今回の文献検討の結果、がん患者の体験については、緊
3) Kinoshita S, Miyashita M (2013).Evaluation of End-of-
急入院となった気管癌患者の心理的危機状態32)が報告され
Life Cancer Care in the ICU: Perceptions of the Bereaved
ているが、ここで述べられている心理状態が、がん患者特
Family in Japan , American Journal of Hospice and
有のものなのか、または、ICUに緊急入室する患者に共通す
Palliative Medicine,30(3) ,225-30.
るものなのかは明らかではなかった。他の、ICU入室患者の
4) 福田友秀,井上智子,佐々木吉子他(2013)集中治療室
記憶と体験を調査した研究には、ICU入室患者の記憶の欠落
入室を経験した患者の記憶と体験の実態と看護支援に
や非現実的な体験 、急な発症に伴う混乱など の報告があ
関する研究,日本クリティカルケア看護学会誌,9
る。しかし、これらの報告では、疾患による体験の違いは
(1)
,29-38.
54)
55)
明らかにはなっていない。また、疾患別の患者の体験に関
する研究には、心臓血管外科患者の体験を記述したもの56)
があるが、他の疾患に共通する体験かどうかは明らかには
なっていない。以上のことから、今後、がん患者は非がん
患者と違った特徴があるのかどうか、患者の体験を明らか
5) 石田はるみ編(2014).はじめてのICU看護,8-9,メ
ディカ出版,大阪.
6) 早川弘一,高野照夫,高島尚美編(2013)ICU・CCU看
護,11-12,医学書院,東京.
7) 山勢義江,山勢博彰,立野淳子(2011)
. クリティカル
にし、看護に活かしていく必要性が示唆された。
ケアにおけるアギュララの問題解決危機モデルを用い
5.全体を通しての考察
た家族看護,日本クリティカルケア看護学会誌,7
ICUに入室となったがん患者の看護に関する文献検討の結
(1)
,8-19.
果、がんの術後回復を目的とした研究の報告が主であっ
8) 神田清子(2013)
,がん患者の苦痛・合併症に対するマ
た。がんの手術は、がんとその周囲の組織や臓器を取り除
ネジメント,小松弘子(編)
:がん看護学,61-69:医学
くという手術侵襲の特徴がある。そのため、ICU看護師は術
書院,東京.
式の違いによる侵襲や身体の変化を考え、看護の展開をし
9) 長場直子(2010),がんの経過に伴う観察,宮崎和子
ており、がんの手術であることでの身体侵襲に着目した看
(監)
,小野寺綾子(編)
:がん看護・緩和ケア,8-13:
護援助を行っていることが推察された。
中央法規,東京.
一方、患者の心理面や家族への支援については、がんと
10) 大石ふみ子,葉山有香(2013)
,がん患者の心理的、社
診断されたときからの患者・家族の心理状態に着目し、そ
会的、およびスピリチュアルな特徴,大西和子,飯野
のような患者がICUに入室する場合に、どのような支援が必
京子(編)
:がん看護学,15-19,ヌーベルヒロカワ,東
要なのかを考えていく必要性があることが示唆された。が
京.
んでICUに入室する患者や家族が、非がん患者と違った特徴
や看護へのニーズがあるのかどうか、今後、がん看護の視
点の必要性については、ICUに入室する患者や家族の体験か
ら明らかにした上で検討をしていく必要があると考える。
11) 日本集中治療医学会(2014-8-29)
.沿革.
http://www.jsicm.org/enkaku.html.
12) 日本麻酔科学学会(2014-8-29).集中治療を受けられる方
へ.http://www.anesth.or.jp/public/icu/
13) 日 本 集 中 治 療 医 学 会 (2014-8-29) . 看 護 部 会
Ⅴ.結
http://square.umin.ac.jp/jsicmnd/about.htm
論
14) 名古屋大学医学部附属病院ICU編(2014).科別にわかる
ICUに入室した患者の看護に関する文献検討を行った結
ICUでの術後ケア,4-5,メディカ出版,大阪.
15) 清水敬樹,村木京子編(2013).ICU看護パーフェクト,4-
果、以下の結論が得られた。
10,羊土社,東京
1.食道がん術後の看護に関する報告が多かった。
2.身体面での看護援助では、がんの術式に応じた看護援助
16) 日本癌学会(2014-8-29).歴史.
http://www.jca.gr.jp/jca/history.html.
がICUでのがん看護の特徴であることが示唆された。
3.患者家族への心理社会的支援に関しては、がんと診断さ
17) 近藤まみこ,嶺岸秀子編(2006).がんサバイバーシップ,
Kanto Gakuin University Journal of Nursing Vol.2, No.1, pp.47-53, 2015 51
集中治療室に入室するがん患者の看護
7-8,医歯薬出版株式会社,東京.
の理論」を用いて,KKR札幌医療センター医学雑誌,
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22) 上野通代(2003)
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52 関東学院大学看護学雑誌 Vol.2, No.1, pp.47-53, 2015
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患者の病日に合わせた
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護Ⅰ,43,27-30.
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へ入室した重症患者家族のニード調査
54) 福田友秀,井上智子,佐々木吉子,茂呂悦子(2013).集
高齢者の多い
中治療室入室を体験した患者の記憶と体験の実態と看
地域性に着目して,日本看護学会論文集: 成人看護I,
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受け持ち患者家
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